ハリウッド映画、北米ヒットの傾向は“ファミリー向け” 2025年の新年興行は前年より好調
新年あけましておめでとうございます。2021年11月から毎週執筆してきた北米映画の興行収入分析が、めでたく4年目に入り、昨年末から「興収で読む北米映画トレンド」という連載タイトルが付きました。引き続き、最新の状況を詳しくお伝えしていく所存です。今年もどうぞよろしくお願いいたします。 【写真】『ウィキッド』と熾烈な争いを繰り広げている『モアナ2』 2025年の初回は、波乱含みだった2024年の北米興行の総括から。 新型コロナウイルス禍からハリウッドが少しずつ立ち直りつつある矢先に起こった、2023年の全米脚本家組合&全米映画俳優組合のWストライキは、スタジオ各社が一斉に企画を一時中断する事態を招き、ほとんど映画館業界の息の根を止めかけた。 2024年6月上旬時点で、北米映画市場全体の興行収入は前年比わずか27.5%。業界全体で、2023年のおよそ4分の1しか興行力がなくなってしまっていたのだ。実際に年間ランキングのトップ10を観ても、5月までの公開作品は、第7位『デューン 砂の惑星PART2』など3作品のみである。 ゲームチェンジャーは、6月14日に公開され、アニメーション史上最高のヒットを記録したディズニー&ピクサー映画『インサイド・ヘッド2』だった。翌7月には『デッドプール&ウルヴァリン』や『怪盗グルーのミニオン超変身』、『ツイスターズ』などが劇場を盛り上げ、秋には『ウィキッド ふたりの魔女』と『モアナと伝説の海2』が大ヒットを記録。本命不在のホリデーシーズンも、『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』と『ライオン・キング:ムファサ』などの健闘につながった。年末には大人向け映画も小粒ながら優れた成績を示し、上半期の不調を忘れさせるほどの復活劇に貢献したのである。 ヒットした作品を概観すると、フランチャイズ作品がほぼすべてで、2023年の『バービー』や『オッペンハイマー』に類するオリジナル脚本作品は年間トップ10から姿を消した。ブロードウェイ・ミュージカル原作『ウィキッド ふたりの魔女』や、前作からのタイムラグゆえオリジナル要素が強まった『ツイスターズ』と『ビートルジュース ビートルジュース』が強いて言えば例外と呼べるだろうか。むろん、長い目で見れば懸念も大きい傾向だが、シリーズやキャラクターの人気に頼れたからこそ北米興行は最悪の事態を脱せたのだ。 もうひとつは、R指定の『デッドプール&ウルヴァリン』を除き、年間トップ5をPG指定の作品が占めたこと。ファミリー向けの“みんなで楽しめる映画”に観客が集まり、映画興行を引っ張ったことがよくわかる。捉え方によっては、『デッドプール&ウルヴァリン』も“大人がみんなで楽しみたい映画”だから、劇場ならではの体験を期待する観客がより多い作品が必然的にヒットしたという言い方もできるだろう。 2024年の北米年間興収は約87億5000万ドルで、前年比マイナス3.3%まで差を縮めた。ただし、海外マーケットでさほどヒットしなかった作品があることから(中国は今も巨大市場だが、ハリウッド映画は以前ほどの存在感がない)、グローバルの年間興行収入は前年比マイナス10%となっている。 年明け、2025年1月3日~5日の週末ランキングは、『ライオン・キング:ムファサ』が公開3週目にして初の週末No.1を獲得。初登場時は『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』に圧倒されたが、クリスマス商戦で逆転した流れを汲んでの首位となった。北米興収は1億6860万ドル、世界興収は4億7640万ドル。海外での成績にも後押しされ、製作費に2億ドルを投じたコストの回収も現実的になってきた。 第2位に陥落した『ソニック × シャドウ TOKYO MISSION』だが、北米興収は1億8750万ドルで『ムファサ』をやや上回っている。世界興収は3億3630万ドルで、第1作『ソニック・ザ・ムービー』(2020年)を超え、前作『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』(2022年)を抜いてシリーズ最高記録の樹立も見えてきた。なお、シリーズ累計興収は10億ドルを突破。来たる第4作への期待も高まっている。