再起を図る日本のGX戦略:川村雄介の飛耳長目
異常な暑さと頻繁な激しい雷雨。昭和時代には、夜間最低気温が25℃以上になると熱帯夜だと話題になったものだが、今やこの温度だと涼しいと感じる。地球温暖化を肌身に感じる日々である。 31度という超熱帯夜のお盆休みの某日、物理学者で大学を引退したばかりの旧友と再会した。「CO2を早く減らさないと、俺たち焼死しちゃうよな」。ため息をつく私に友人は「そう簡単な話じゃないぜ」と盃をテーブルに戻す。独演会の始まりだ。 「温暖化の原因のひとつがCO2にあることは間違いないが、この問題には多数の要因が複雑に絡んでいて単純ではない。専門家も各分野に無数にいる。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)という国際的に権威のある組織が報告書を出しているけど、数千ページの分量だ。これをしっかり読み込んでいるメディアがいるかね?」 また、2050年ネットゼロ(温室効果ガス排出量実質ゼロ)が果たして現実的なのかとも疑問を投げかける。「石油を全部風力に置き換えるにはフランス国土並みの面積、太陽光だとスペイン並みの広さが必要だという試算がある。エジソン電気研究所などのデータを基にすると、50年までにネットゼロにするための、高圧電力網の整備には、42万7000トンの銅を必要とする。投資額は3000兆円にも上る。それに銅の採掘から精錬、製品化までに要する膨大な電力は、当分はかなりの部分、化石燃料に頼らざるをえない」。なるほど、AI普及に不可欠のデータセンターは、膨大な発電力を要求するが、ネットゼロで対応できるのだろうか。それに熱帯夜のエアコンを太陽光発電に頼っていては、熱中症になってしまうかもしれない。 酔いが回った友人の舌鋒は国連にまで向かう。「あそこのお偉いさんは、口を開けば脱炭素、脱炭素だが、ウクライナや中東で使われているミサイルや戦車、爆弾はカーボンフリーなのかね? 大量殺人とすさまじいCO2発生を放置しながら、安全で快適な場所から脱炭素を説教されてもカチンとくるだけだよ」 まあ、友人の持論は持論としてさておき、世界は脱炭素に向けて弾みをつけている。日本では上場企業のサステナブル開示義務が一段と強化される。世界規模でGX(グリーン化)が待ったなしになっていることは明らかである。こうなると仕事柄、日本の産業力や国力からの切り口に関心が向かう。 まず、GXは、日本の産業・企業が返り咲く絶好のチャンスと考えるべきだ。ITやDXで大きく出遅れた敵をGXで討ちたい。クリーン・エネルギーの分野は、元々日本が先行していた。いったん退いてしまったとはいえ、既存技術に磨きをかけるのが日本のお家芸である。太陽光であれ風力であれ、電池であれ、より小型で効率的かつ安価な製品を開発したい。幸いこれらの裾野分野の技術群のレベルには定評がある。