守備陣の選手層が拡大 大型レフティ町田浩樹が示した攻守両面の新たな可能性
FIFAワールドカップアジア最終予選初戦を2大会続けて落としている日本代表にとって、FIFAワールドカップ26への初陣となった5日の中国代表戦は“絶対に負けられない戦い”だった。 3年前のオマーン代表戦で苦い経験をしている森保一監督にしてみれば、なかなかリスクは冒せない状況。しかしながら、ふたを開けてみると、システムは長年ベースとしてきた4-2-3-1ではなく、3-4-2-1。しかも堂安律と三笘薫を両ウイングバックに置く攻撃的な采配となった。 「新しくやるというより、6月からの継続ということで、その中でコンディション、選手の状態を見ながら起用した」と指揮官は言うが、思い切った策に打って出たのは確かだ。 要因の一つは、左サイドバックの人材難ではないか。伊藤洋輝が負傷離脱中で、長友佑都はFC東京で試合に出たり出なかったり。中山雄太も8月に加入したFC町田ゼルビアでは左センターバックを主戦場にしていて、感覚的な部分を含め、不安は拭えなかった。 おそらく伊藤洋輝と同じ長身レフティの町田浩樹を起用するプランもあったのだろうが、6月のシリア戦で3バックの左で機能した印象を踏まえると、そちらの方がベターという判断もあったはず。ある意味、町田は今回のキーマンの1人と位置づけられたのである。 彼にとって心強かったのは、2年前にユニオン・サン・ジロワーズで共闘していた三笘薫が近くにいて、連携連動しながらプレーできたこと。 「2年ぐらい前のイメージを描きながらプレーしました。簡単につけてくれることと、後ろでの安心感は彼らしい。彼の左足から素早いボールで足もとに届けてくれるので、自分も速く仕掛けられると思います」と、三笘は町田への絶対的信頼を口にする。町田本人もホットラインを生かしつつ、序盤から攻撃の糸口を探っていったという。 「相手が引いてきたので、サイドで薫に勝負させてというのは考えていました。ただ、『サイド、サイド』だけにならず、中に打ち込むパスも意識しました。徐々にサイドが空いてきて、僕が上がるスペースもできたと思います」と前向きに語る。 インサイドへの縦パスの意識が最初に明確な形になったのが、33分の上田綺世の抜け出しだ。町田も一発のボールを出すタイミングを探り続けていたが、この場面では阿吽の呼吸で出せたという。 その自信が後半の2ゴールのお膳立てにつながる。1つ目は52分。自身の縦パスが南野拓実に渡り、三笘とのワンツーからペナルティエリア内に侵入。背番号8らしい駆け引きでチーム3点目を挙げることに成功する。 さらに6分後、町田は上田綺世への鋭いボールを供給。エースFWが落としたところに南野が鋭くフォローに行き、豪快な4点目を叩き出したのだ。 「綺世には前半からずっと要求されていたので、綺世に入った瞬間に拓実君も感じ取って潜り込んでくれた。2人とイメージが共有できたし、中に打ち込むパスから点が取れたので、そこはすごいポジティブです。左DFで出ている自分はスペースが空いたら差し込むプレーは絶対にやらないといけない。そこは僕の武器。継続していきたいと思います」と本人も公式戦で目に見える結果を出したことで、手応えをつかんだ様子だった。 もちろん課題がなかったわけではない。鈴木彩艶への中途半端なバックパスで相手に詰められそうになった82分のシーンなどは顕著な例。背後のボール処理にも不安定さを垣間見せるなど、まだまだブラッシュアップしなければいけない点は少なくない。 それでも、彼は1年前の2023年9月のトルコ戦でA代表初キャップを飾ってからまだ11試合目のDF。前回最終予選に参戦した谷口彰悟や板倉滉とは経験値が全く違う。まさに“発展途上の存在”なのだ。 ただ、長年、左利きの長身DFの台頭を待ち望んでいた日本サッカー界にしてみれば、伊藤洋輝に続いてこの男が頭角を現したことは大きな前進に他ならない。この日、初キャップを記録した20歳の高井幸大含め、最終ラインの人材が分厚くなったのも朗報だ。絶対的主軸の冨安健洋はケガがちで、コンスタントに代表に帯同できない状況が続いているだけに、使える人材は多ければ多いほどいい。 「(伊藤とは)本当にいい競争ができていると思いますし、僕自身も彼に負けないようにもっともっとレベルを上げないといけない」と本人も目をぎらつかせていた。 穏やかなタイプの町田が闘争心をむき出しするようになったのも特筆すべき点。伊藤がバイエルンにステップアップしたのなら自分もビッグクラブへ、という野心も胸に抱いているはずだ。 今夏のヨーロッパ移籍市場ではオファーもあったというが、日本代表で実績を積み重ねれば、よりよい環境へ赴くチャンスも広がってくる。そうなるように、まずは最終予選で代表での地盤固めを確実に遂行することが大切だ。 10日のバーレーン戦で出番があるかどうかは未知数だが、酷暑の地でプレーの基準を保てるかどうかも新たな課題。町田浩樹の真価が試されるところだ。 取材・文=元川悦子
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