松本若菜×松村北斗『西園寺さんは家事をしない』はドラマとして何が革新的なのか?
「恋人がいない=幸せじゃない」を覆す『西園寺さんは家事をしない』
これまで多くのラブコメディが、「仕事はできるけれど恋人はいない=プライベートは充実していない=幸せじゃない」と現状を否定的に描くことで、その後の出会い、主に恋愛による充実度を高めていたのに対し、今のままでも十分に幸せな西園寺さんが、シングルファーザーの楠見とその娘・ルカ(倉田瑛茉)とひょんなことから「偽家族」になることで、「1つ屋根の下で一緒に暮らすようになって、ほんの少しだけど疲れ」るし、時に変に気負ってしまうこともあるけれど、互いに思いやり、助け合える心地よい関係性を築くことで「なんだかもっと楽しくなった」日々を見つめるのが本作なのである。 何より、第4話でルカを元気づけるために外食を提案するも、大好きなシルバニアファミリーの店で、気づいたら自分のほうがはしゃいでしまっているところや、ルカと友達の仲直りのために尽力しつつ、「自分がやりたいから」カズト横井(津田健次郎)に扮して、嬉々として踊るところなど、一般的な大人と子どもの関係性の概念さえも軽々と覆してしまう西園寺さんのハッピーオーラに、気づいたら夢中である。 『西園寺さんは家事をしない』は「家族」を「助け合うためのチーム名」だと定義した。それは、西園寺さんと楠見親子が織りなす「偽家族」の定義であるが、本当の家族においてもそうであったらいいと思う。個人が個人の幸せを追求して生きることが当たり前になった現代において、人と深く関わらなくても幸せに生きていくことができるようになった。それでも誰かと過ごすことは、人に思わぬ発見を与えてくれる。 とはいえ、長年人々が築き上げてきた「前例」に従ったままでは、家族が、個人の自由の妨げになりかねない時代、ありとあらゆる「こうあるべき」家族像を捨てて、100人いれば100通りの「家族の形」を作っていけばいい。西園寺さんと楠見が決めた「気を遣わずに助け合える関係性」が「家族」の定義として成立するのなら、これほどワクワクすることはないのではないか。そんな理想の「新しい家族の形」を西園寺さんと楠見とルカは見せてくれそうな気がする。
藤原奈緒