人口減・超高齢社会乗り越えるモデル「世界に発信」 黒岩祐治神奈川県知事
昨年公表の国勢調査で日本の総人口が減少に転じ、自治体をどのように舵取りしていくかきくために実施した首長インタビューで神奈川県の黒岩祐治知事は、高齢化の進行が全国1位、2位の速さで進行していることに関し、健康寿命の延伸と新たな産業創出を目的に実施している独自政策と今後の可能性などについて語った。 国の医療政策が「為政者側の論理」であるのに対し、神奈川県の取り組みは「自分主体の論理に変えていこうという大きな変革」であると強調し、課題先進県として世界に発信できる超高齢社会に対応したモデルをつくることに意欲を示した。
大都市部以外では人口減少が進行、国家戦略特区を生かし「地域限定保育士」実現
全国では多くの自治体が人口減少局面に突入しているが、神奈川県全体では人口増が続いている。この状況について黒岩知事は、大都市部の横浜市、川崎市以外、特に三浦半島などの地域では減少が著しいとし、「幾ときかすれば頭打ちになり、人口減少に転じていく」、「神奈川全体だけじゃなく、地域地域で磁石のように引きつけるマグネット力を持つことが大事」と述べた。 神奈川県ならではの課題としては、結婚・出産・子育て期の女性が一時的に仕事を離れるためにできる、女性の就労状況を示したM字カーブの落ち込み部分が、全国で最も深いことに触れ、子育てしながら働きやすい環境づくり、「待機児童ゼロ」を目指していると説明。黒岩知事が提案した国家戦略特区による「地域限定保育士」実現が、国の保育士試験の回数増加につながったとして、「岩盤規制を突破するドリルの役目、国家戦略特区の使命を果たしたと思っている」とその意義を語った。
超高齢社会への取り組み通じ、「為政者の論理から自分主体の論理」に変革
また、高度経済成長期に労働生産人口が、東京圏である神奈川県に大量流入したことにより、高齢化が「全国トップクラス」のスピードで進行していることについて「大変な危機感をもって対応を始めている」と話した。その上で「一番大事なことは病気にならなくすること」と強調。健康と病気の間のグラデーション状態にあたる「未病」を改善する考えに基づいた独自の取り組みと、最先端医療やロボットなどの最新技術を結びつけた「ヘルスケア・ニューフロンティア事業」展開による可能性を説いた。 特に、未病改善については「社会システムそのものの変革につながってくる」と指摘。2050年には全国で100歳以上の高齢者が70万人に達するという推計を踏まえ、「100歳まで生きるということを前提とした社会の仕組みづくり」が必要で、人生100歳時代に向けた支援策に具体的に取り組んでいるとした。 こうした未病をはじめとする独自の健康医療戦略に「大きな意味を感じている」と明かし、従来の医療制度は「為政者の論理」だったが、神奈川県の実践は「自分主体の論理に変えていこうという大きな変革」と言及。「圧倒的な超高齢社会を乗り越えるためには依存していたらだめ」、「意識改革に当たることが今進みつつある」と語った。 さらに世界で最も早く高齢化が進行した日本の中でも特に課題先進県であるからこそ、神奈川県の取り組みは国際的に注目されていると述べ、「世界に発信する」ことができるような超高齢社会の課題を乗り越える独自「モデル」の構築に力を入れる考えを示した。 (2017年6月取材) ---------- 【黒岩祐治(くろいわゆうじ)】 1954年9月26日兵庫県神戸市出身。1980年早稲田大学政治経済学部卒業、(株)フジテレビジョン入社。報道キャスターなどを経て、2009年国際医療福祉大学大学院教授に着任。2011年4月神奈川県知事に就任。2013年内閣官房健康・医療戦略参与、2014年内閣官房ロボット革命実現会議委員に就任。2015年から神奈川県知事2期目。 主な著書として「百歳時代 ― “未病”のすすめ ― 」(IDP新書、2016年)、「地産地消のエネルギー革命」(PHP新書、2011年)、「救急医療にメス― 走れ!家族のための救急車」(情報センター出版局、1990年)など。 ---------- ※インタビューの全文は【連載】人口減少時代 「黒岩祐治・神奈川県知事に聞く」(全文1~3完)に掲載