「1億円超え」の不動産を「主治医」に生前贈与…身寄りのない高齢者の《噂》が”闇の不動産ネットワーク”を駆け巡る
今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。 同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。 『地面師』連載第46回 『大御所弁護士への「損害賠償命令」に実行犯の「逮捕」...弁護士事務所という「社会的信用」に乗せられて6.5億を騙し取られた渋谷区富ヶ谷地面師事件の「結末」』より続く
生前贈与の持ちかけ
「先生、何でしたらここを使ってもらってもいいんですけど」 発端は、吉村清子がクリニックの医師に話したそのひと言だった。2010年に父誠次から財産を相続して所有してきた清子は、すでに傘寿を過ぎていた。財産の大半は、墨田区東向島の3階建てのビルだ。身寄りがなく、ひとり暮らしを余儀なくされていた清子は、話し相手にも事欠く高齢者だった。唯一の話し相手がかかりつけのクリニック医師である。その主治医を頼り、さまざまな相談事を持ち込んだ。一方、医師も親身になって彼女の相談に応えてきた。 親から相続したくだんのビルは、東武スカイツリーライン曳舟駅から100メートルと近く、京成押上線の曳舟駅から歩いて5分しかかからない。下町とはいえ、昨今のスカイツリーブームも手伝い、利便性の高いこのあたりの地価は高騰し続けてきた。清子が父親から受け継いだ財産は、土地建物だけでも1億円近くにのぼる。 父親の財産をこの先どうすべきか、それが彼女にとって最大の悩みだった。 信頼できる先生に私の持っているビルを病院として使ってもらえたら嬉しい――。そんな素朴な発想だったのだろう。クリニックの医師に財産の贈与まで持ちかけたのは。 身寄りのない独居老人の持つこうした優良物件は、かねてより不動産ブローカーのあいだで注目されてきた。やがて、清子が主治医に不動産の処理を託しているというその話が、広まっていった。
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