『SPY×FAMILY』『怪獣8号』『ダンダダン』 『少年ジャンプ+』作品のアニメ化なぜ増加?
月曜日のコンビニで『週刊少年ジャンプ』を買う暮らしから、スマートフォンやタブレットで『少年ジャンプ+』のアプリを毎日開く暮らしへ。漫画読みの間で起こっているそうした変化がなぜ起こったのかを考える時、『少年ジャンプ+』の連載作品から次々と登場してくる強力なアニメーション作品群は外せない。12月22日に『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』が公開となる『SPY×FAMILY』や、第2期の放送が待たれる『地獄楽』などが新規の読者を誘う一方で、『ダンダダン』や『怪獣8号』がこれからアニメとなって媒体の存在感を見せつけそう。『少年ジャンプ+』はどうして漫画とアニメのヒット作を生み出し続けられるのか? 【写真】TVアニメ『ダンダダン』場面写真(複数あり) 「『週刊少年ジャンプ』に企画を出したらボツだったんです。連載されていたとしても、途中で打ち切りになっていたと思います」(※)。その年で1番の漫画作品を投票で決める「マンガ大賞2019」を、『彼方のアストラ』が受賞した時に作者の篠原健太が話した言葉だ。 TVアニメ化もされた『SKET DANCE』の作者として、『週刊少年ジャンプ』に連載していても不思議ではないポジションの漫画家でも企画をボツにされる。それだけ『週刊少年ジャンプ』が厳しいということになるが、そこで終わっていたら『彼方のアストラ』は生まれず、アニメ化もされなかった。 「企画を成仏させたい」(※)という一心で、ウェブの『少年ジャンプ+』を連載場所に選び、15人いたキャラクターを9人に減らすなどしてストーリーを凝縮してスタート。宇宙を舞台に生き延びようとあがく少年少女の姿を描き、ミステリアスな設定も盛り込んで毎週読みたいと思わせることで読者を獲得し、人気作品になっていった。 人気投票というシステムの上で切磋琢磨をする中から、『ONE PIECE』や『僕のヒーローアカデミア』や『呪術廻戦』といった話題作を送り出してきた『週刊少年ジャンプ』のすごさは、『ドラゴンボール』や『北斗の拳』『シティーハンター』が日本中を席巻していた時代から変わらない。最近も、三浦糀による『アオのハコ』のアニメ化が決まり、次は末永裕樹原作、馬上鷹将作画の『あかね噺』がいつアニメ化決定となるかに関心が向かっている。 その一方で、『少年ジャンプ+』の連載作品にもアニメ化の話題が次から次へと起こって、『週刊少年ジャンプ』よりも賑わっているようにも見える。 現時点で話題のトップに位置するのは、TVアニメのSeason2が放送中で、完全オリジナルのストーリーで劇場版にもなる遠藤達哉の『SPY×FAMILY』だろう。連載が始まってすぐ、スパイの男と殺し屋の女と超能力者の少女が疑似家族となって暮らすうちに起こるさまざまな状況を、時にコミカルに描き、時にスパイ映画のようなアクションも交えてシリアスに描いて読者を引きつけた。 これだけの面白さがあるなら、『週刊少年ジャンプ』で連載されていても人気は獲得できたと思えるが、人気作品が上位に並ぶ『週刊少年ジャンプ』のアンケートですぐに上位に並ぶのは至難の業。篠原が言うように、途中で打ち切りとなる可能性もあっただろう。過去に連載経験もなかった作者を起用する余裕もなかったのかもしれない。 結果、『SPY×FAMILY』は『少年ジャンプ+』での連載となった。この頃から1回目は全話を無料で読めるサービス内容の変更も追い風となって、大勢に読まれ人気を得て『少年ジャンプ+』の看板作品になり、アプリそのものへの関心も高めていった。こうした媒体への注目は、すでに連載が始まっていた賀来ゆうじ『地獄楽』にも及んで、クライマックスへと至る盛り上がりからアニメ化へと流れ込んでいったと想像してしまう。 人気が人気を呼ぶ状況は、松本直也『怪獣8号』にも繋がった。中年にさしかかった男が、子供の頃からの夢をあきらめきれず、幼なじみが歩む道にも近づきたいと思って怪獣退治を専門に行う組織、日本防衛隊を目指す。そんな設定で中高年の心を刺激し、連載開始と同時に話題を独占した。怪獣と融合した主人公が驚異的な力を振るって、強大なはずの怪獣を倒していく展開にも圧倒された。 元殺し屋の妻子持ちが主人公の鈴木祐斗『SAKAMOTO DAYS』という前例があっても、中高年が好みそうな漫画は『週刊少年ジャンプ』には向いていなかったかもしれない。それなら『ヤングジャンプ』や『ジャンプSQ』といった大人が読む雑誌に連載されても良さそうだが、『怪獣8号』は『少年ジャンプ+』での連載を経て人気を集めていった。毎週の掲載でなくても、そしてページ数が少ない時があっても、無料で読めるなら支持し続けるファンがいる媒体の強みもあったのかもしれない。 そしてアニメ化決定。『PSYCHO-PASS サイコパス』や『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』のProduction I.Gが制作を手がけ、特撮好きの庵野秀明監督が設立したスタジオカラーが怪獣デザインを担当する組み合わせだけでも、ハイクオリティなアニメになるといった確信が浮かぶ。2024年4月からという放送がスタートすれば、そこから原作に入って読み始め、他の漫画にも気づいて盛り上がる流れが今一度起こりそうだ。 それは、龍幸伸の『ダンダダン』にも当てはまる。幽霊や妖怪や宇宙人といったオカルティックな存在が起こす怪異に巻き込まれながらも、少年少女たちが奮闘しては突破していく痛快ストーリーを圧倒的な画力で描いてすぐさま評判となった作品だ。これを映像化できるのは、『呪術廻戦』のMAPPAか、『鬼滅の刃』のufotableか、『プロメア』のトリガーくらいだろうと思われていた制作会社に、『DEVILMAN crybaby』『犬王』のサイエンスSARUが挙がって、どのような映像になるのかと期待を誘っている。 こうなってくると、作品自体が実際に面白さを持っていることは確かな上で、ここに連載している漫画をアニメ化したら評判になると思われている可能性も浮かんでくる。橋本悠『2.5次元の誘惑』も、春原ロビンソン原作、ひらけい漫画の『姫様“拷問”の時間です』も、アンギャマン『ラーメン赤猫』も、アニメ化の発表時に『SPY×FAMILY』や『怪獣8号』などに並ぶ例として取り上げられた。媒体が持つバリューがメディアミックスを呼ぶのは『週刊少年ジャンプ』でも起こったこと。その現象が今、『少年ジャンプ+』で起こっていると見ることもできる。 こうなると、『週刊少年ジャンプ』で起こっていた切磋琢磨が漫画アプリの方でも起こることになるだろう。「マンガ大賞2019」の受賞式で、作者の篠原は「週刊誌はパラパラと読んで絵が面白ければ目にとまります。面白いとあって読み始めますが、ウェブは自分から読みに行かない限り読まない」(※)と話して、作品を知ってもらう苦労を口にした。宣伝が必要とアカウントを取ってTwitter(現X)で自らPRもして成功へとたどり着いた。 話題が話題を呼んで盛り上がる今だからこそ、漫然と待っているだけでは届かない。次の『SPY×FAMILY』であり『怪獣8号』であり『ダンダダン』になるために、送り手側の読み手に刺さるようなPR戦略が必要になっていると言えそうだ。 参照 ※ https://jp.ign.com/manga-award-2019/34101/news/2019
タニグチリウイチ