電通マンたちに「トイレの下見」までさせた“伝説の経営者”の言葉とは?
● 長時間労働の常態化は 電通の構造的な問題 このように、長時間労働の常態化は、広告代理業というビジネスモデルに、電通の「逃げずに調整をやり切る」伝統があいまっての、構造的な問題でした。 そんな電通でしたから、本気で時短改革を始めた際にも、現場からあがったのは「反発」などではなく、「そんなことが、本当に可能なのか」という、根本的な問いでした。 これは、「時短なんか、冗談じゃない」などという低レベルの脊髄反射ではありません。「クライアントがいるのに、先に帰れるわけがない」という単純なものでもありません。 ビジネスモデルと自分たちの存在価値の根幹にかかわることを、そもそも改革できるのか?なんなら、これまでクライアントからいただいたどんな難題より難しくないか?そんな声でした。 クライアントの担当の方々に共走するにも、発注先に仕事を引き受けてもらうにも、相手はすべてヒトの心です。 最初は「何言ってるの、ムリだって自分でもわかってるでしょ」と厳しく拒絶されるところから始まり、お互いに妥協し合える「落としどころ」を探る。その調整はじっくりと時間をかけなければなりません。そうでなければ相手に「軽く見られた」「カネや権威で押し切ろうとされた」などと思われかねない。 中でもいちばんダメなやり方が、「間に合わないからウンと言ってください」と締め切りを突きつけることです。時間がないことは、もちろんプロのみなさんはわかっている。そのうえで、電通がどうやって「それを言わずに」説得するか、それをみなさんある意味期待しておられます。 「すみません、夜10時までにお願いします、ケツカッチンなんで」 それは、しっかり合意ができてからの実施段階で、初めて口にしてよいセリフです。 調整業務をなりわいとしてきた社員たちには、「発注先にシワを寄せて『電通だけ時短』というのは、社員のわれわれが許さない」というプロ意識がありました。 ということで、電通の時短改革のスタートに際しては、個々人それぞれに大きな問題意識があったわけです。時短しなければいけないことはよくわかる、しかし、いったいどうすれば?