都の学校カウンセラー「250人雇い止め」の衝撃 学校や保護者から評価高く、経験豊富なSCが
これに対し、山口さんは「学校からの評価も高く、経験も豊富なSCを切る理由ってなんですか? 子どもたちや保護者にどんなメリットがあるんでしょうか?」と反発する。 山口さんによると、SCの仕事は相談室で子どもたちが来るのをただ待っているだけではない。保護者との面談や教師への説明に加え、普段の様子を見るために授業や給食中の教室を回ることも重要な業務だ。校内の関連部会やケース会議への参加を求められることや、教師の家庭訪問に同行することもある。対応する問題もいじめや不登校だけでなく、虐待や自傷行為、ヤングケアラー、発達障害、宗教2世など年々複雑、かつ深刻化している。
山口さんが今の学校に配置されたのは1年前。通常、SCは6年間同じ学校に勤務するという。その間、計画的に時間をかけて人間関係を築いていき、配置換えが近くなったときは子どもや保護者の心理的な負担を抑えるための準備をする。 山口さんは「SCが1年で突然いなくなっては、子どもたちも戸惑うのではないか」と心配する。実際に中学生の子どもを持つある母親は「以前、子どもがSCが代わったという理由で面接に行くのをやめたことがあります」と語る。SCの能力や経験はもちろんだが、「同じ人が、できるだけ変わらず同じ場所にいてくれる」ことの安心感が大切なのだという。
都のSCの勤務日数は1校につき年間38日で、平均週1回のペースで出勤する。1人のSCが1~3校を受け持ち、1校当たりの年収は約170万円。多くが大学院で心理学を専攻し、臨床心理士や公認心理師の資格を持っている。 山口さんの勤務校は1校。ほかの自治体のSCなどの仕事もあるのでただちに生活が困るというわけではないが、予想外の170万円の年収ダウンの影響は小さくない。 「まさか自分が雇い止めになるとは思いませんでした。どうして私が不採用なのか、その理由を知りたい」
都教委によると、都のSCは約1500人。全員が非正規公務員である「会計年度任用職員」で、都内の公立小中学校や高校などに配置されている。来年度以降の契約更新を希望して試験を受けたSCは1096人で、このうち250人が不合格となった。雇い止めの理由について都教委指導企画課は「雇用機会公平性の確保のため。SCをやりたいという市民の方々に広く挑戦する機会をもってもらうためです」と説明する。 SCは公務員なので、正確には「雇い止め」ではなく「再任用拒否」という。しかし、10年、20年と働き続け、その収入で生計を立ててきたSCにとっては事実上の解雇、雇い止めである。今回の“大量解雇”を受け、SCたちが加入する東京公務公共一般労働組合「心理職ユニオン」には、約70件の相談が寄せられているという。