井上尚弥の防衛戦 ―刺客はサウスポーの「The Power」
世界4団体統一スーパーバンタム級チャンピオン、井上尚弥(大橋)の次戦は9月3日、東京・有明アリーナで元IBF(国際ボクシング連盟)チャンピオンのTJ・ドヘニー(アイルランド)を迎えて行われる。井上にとって統一王座2度目の防衛戦となる。 東京ドームでルイス・ネリ(メキシコ)を撃退したのがさる5月。以来、井上への次なる刺客は誰なのかと世界中のボクシングファンが注目してきた。挑戦者として白羽の矢が立ったドヘニーは「いままでの井上の相手のように逃げ回ったりはしない」「私は自分のパワーと精神力を信じている」と、早くも武者震い。試合に備えてアメリカ・ボストンでトレーニング・キャンプに入っているという。
井上と戦うことで価値を上げる挑戦者
今年38歳になるベテランの挑戦者の闘志をかきたてるものは、スーパーチャンピオン井上に勝って歴史に名を刻むことに他ならない。かつてジェームス・ダグラスがマイク・タイソンに初めて土をつけたように、無敵の井上を破ろうものなら後々まで語り継がれる番狂わせ劇となろう。 もっとも、たとえ敗れてもネリのようにいいところを見せればファイターとしての評価を上げられるのである。それに井上との対戦に名乗り出る怖いもの知らずたちは、魅力的な報酬も手に入れられる。やる気満々になって当然。 さて今回のドヘニーは一発当てられるのか。 TJこと本名テレンス・ジョン・ドヘニーは1986年11月2日生まれのサウスポーだ。アイルランドのポート・レーイシュ出身だが、プロになってからはオーストラリアを拠点にしており、祖国のリングに上がったことは一度もない。ここまでプロで30戦26勝(20KO)4敗の戦績。 日本はドヘニーにとってゲンのいい国である。 まず、無敗で初めて世界チャンピオンになったのが東京・後楽園ホールのリングだった。2018年8月、IBFの指名挑戦者として当時のチャンピオン岩佐亮佑(セレス)に挑み、明白な3-0判定勝ちを収め、タイトルを獲得したこと。 さらに、無冠となってから昨年6月に再び日本で試合を行い、井上と同門の中嶋一輝に4ラウンドTKO勝ちで地域タイトルを奪取。この一戦を含め、3試合続けて日本のリングに立ち、いずれもTKOで勝利している。最新試合は井上-ネリ戦の前座でノンタイトル戦に出場して、フィリピンのブリル・バヨゴスを一蹴している。ちなみにバヨゴス戦はメインのリザーブカードの意味合いで行われた。仮にネリが体重超過など不測の事態で井上戦のリングに上がれないとなると、かわってドヘニーが井上に挑戦する手はずだったのである。 日本で世界チャンピオンとなるもアメリカの統一戦で敗れ、その後しばらくはドバイやイギリスで星を取りこぼすなどして過去のボクサーになったと思わせたが、再び日本のリングで甦った男、それがドヘニーだ。ドヘニー本人がゲンを担ぐタイプであるのか定かではないが、アウェイといっても戦いなれた場所であるのは間違いない。