〈中国日本人学校の男児死亡〉中国人から悲しみや怒りの声も、デジタル監視社会が進んでも再び同様の事件が起こり得る理由
賈氏は今後、同様の事件が起きることを防ぐためにも、事件や犯人についての詳細な報道が必要だと指摘する。今年4月には江蘇省蘇州市で日本人駐在員が通り魔に襲われて負傷、6月には吉林省吉林市で米大学教員が通り魔に襲われて負傷、同じく6月には蘇州市で日本人母子が通り魔に襲われて、かばった中国人女性が死亡する事件が起きている。 いずれも事件に関する詳細な報道はない。臭いものに蓋をする式のやり方ではなく、正確な報道を行うことが抑止につながるのではないかと、賈氏は訴えた。
「社会的報復」の対象としての日本人
10歳の少年の死は日本と中国の多くの人々に悲しみと怒りをもたらすものとなった。だが、皮肉にもだからこそ今後、同様の事件が相次ぐ可能性が高いと筆者は見ている。 現地紙・深セン特区報によると、犯人の鐘(ジョン)は44歳、無職。2015年に公共通信設備破壊、19年に虚偽の事実を触れ回った公共秩序騒乱の容疑で、二度の拘束歴があるという。社会になんらかの不満があった上での犯行の可能性が高そうだ。 というのも、中国ではこうした事件がたびたび起きているからだ。社会に不満を持った人々が、特に恨みのない無辜の人をターゲットに暴力を振るう事件を「社会的報復」と言う。 思いつくままに代表的な事件をあげよう。 ・2010年、福建省南平市の小学校襲撃。8人が死亡。 ・2011年、江西省撫州市の地方政府庁舎を狙った爆破事件。犯人含め3人が死亡。 ・2013年、福建省アモイ市の路線バス放火事件。犯人含め47人が死亡。 社会的報復のための事件ではより大きな反響を引き起こす対象が狙われる。弱者であり、かつ社会の同情を引きやすい子どもが狙われやすいとされてきたが、外国人の子どもであれば国際的な注目をも集める。 日本人であれば民族主義とも関連してより大きな反響を引き出せる。今年6月にも江蘇省蘇州市で日本人の子どもが狙われた襲撃事件もあっただけに、こうした理屈のもとで今後も模倣犯がでる可能性は否めない。
中国社会は悲劇を防げるのか
中国はこの10年ほど、体感治安が大きく向上したと言われている。街中に設置された監視カメラ、インターネットの検閲や監視などのデジタル監視社会化が治安の向上に寄与したとの見立てだ。確かにその威力は強力ですりやひったくり、窃盗事件は捕まる確率がきわめて高くなっているという。 だが、自分の破滅を承知の上での破れかぶれの犯行にはデジタル監視社会も決定的な抑止力たりえないのではないか。事件後、中国当局は事件現場の日本人学校周囲の監視カメラを増設していると伝えられているが、その効果には疑問が残る。
高口康太