MF中村敬斗(スタッド・ランス)(Koki NAGAHAMA/GEKISAKA)

[10.15 W杯最終予選 日本 1-1 オーストラリア 埼玉] 　日本代表を今大会初黒星の危機から救ったのは、わずかな出場機会の中でもひたむきに準備を続けてきた24歳だった。「大量得点の試合で点を取るのではなく、大事な試合、こういうかなり拮抗した試合でゴールに直結するプレーができたのが嬉しい」。試合後、MF中村敬斗(スタッド・ランス)はほっとした表情で自身の働きを振り返った。 【写真】伊東純也ら欧州組9選手の秋冬コーデに大反響「黒髪もステキ」「これはずるい」「まじ俳優レベル」 　中村は0-1で迎えた後半25分、左ウイングバックのポジションで途中出場。「負けている状態で入ったのでゴールに向かって前に前にプレーしようとしていた」。同ポジションから左シャドーに回ったMF三笘薫(ブライトン)との連係で積極的な姿勢を見せると、同31分に結果を出した。 　左サイドでパスを受けた中村は、三笘のスクリーンプレーで進路を阻まれた相手選手を振り切り、ペナルティエリア左に侵入。最後まで相手の狙いを絞らせない連続フェイントで守備陣2人を華麗にいなし、「意識していた」という低いクロスボールでDFキャメロン・バージェスのオウンゴールを誘った。 「1人目を抜いた時に三笘選手が中にいて引き連れてくれたので、後ろから追いかけてくる選手もいなかった。2人で崩せた場面だと思う」 　そう三笘への感謝を口にした中村は「1人目を抜いて、2人目の時にはカットインして打とうと思ったけど、カットインにはついてこれるかなと思った。縦にキックフェイントでかわして、そっちもついてくるかなと思ったけど、うまく抜き切れたのでもっと中に切れ込めてよかった」と冷静な駆け引きを振り返った。 　日本代表はこの日、5バックで強固なブロックを敷くオーストラリアに対し、合計31本のクロスを試みていたが、中村のシーン以外はほとんど決定機につながらなかった。大半はペナルティエリア外の遠い位置からクロスが入っていたことで、オーストラリアの高い壁に阻まれ続けた格好だった。 　しかし、この場面では中村がペナルティエリア内までえぐり込んだことで、相手ディフェンスの対応が間に合わなかった。試合後、自らのクロスが不発に終わったMF久保建英は「中村選手がやっていたように、あそこまで侵入していくほうが相手も嫌なのかなと思う」と反省まじりに中村のプレー選択を称えていた。 　こうした久保の言葉に対し、中村は「たまたまです」と苦笑いを浮かべる。口にしたのは「僕もゴールにつながったシーンは切り込んだけど、それ以外のシーンはシンプルに入れていて、グッと切り込んだシーンはあれだけだった。でも久保選手にそう言ってもらえたのは嬉しい」という謙遜だった。 　もっとも、縦突破からのクロスはリーグ・アンで磨き上げてきた武器。「トップスピードの状態でクロスを中に入れていくのはフランスリーグという、より身体能力の高い相手選手がほとんどの中でやっていることで成長している理由かなと思う」。そう胸を張った中村は得点シーンについて「キックフェイントでかわしたシーンもおそらくフランスならついてくる」とも振り返り、日常的にハイレベルな環境に身を置くアタッカーとしての矜持をにじませた。 　そんな中村にとっては、ポジション争いを好転させるためにも大きな転機となった。 　今年6月までは左サイドのポジション争いで急台頭し、国際Aマッチ通算10試合8ゴールと記録的な活躍を見せていた中村だが、三笘が復帰した9月以降は先発の機会がなく、バーレーン戦(◯5-0)、サウジアラビア戦(◯2-0)の終盤に出場したのみ。もっとも、そんな中でもひたむきに準備は続けてきた。 「相当レベルの高い選手がいる中でプレーしているので出場時間が短いことは理解していた。出た時に結果やゴールにつながるようなプレーをして存在感を出すしかないと思っていた。限られた時間でこういうプレーをできてよかった」 　ポジション争いのライバルとみられた三笘との共存も好材料だ。「自分が張っている時に自分をフリーにするような動きをしてくれていて、自分がいい形でボールを受けられたのは三笘選手が中でうまくボールを引き出してくれたおかげ」。個人としても、チームとしても価値ある一戦に「なんとか勝ち点1を取れたのでポジティブな勝ち点1。次につながったかなと思う」と笑みを浮かべた。