特攻隊員と女性

写真:現代ビジネス

終戦直前の1945年8月13日、第二〇一神鷲隊員として銚子沖に出撃して戦死した陸軍少尉・横山善次(22歳、明治学院高等商業部、特操2期)は7月13日の遺書に、 善次は御両親についで、千代ちゃんに逢いたいのです。そして善次は、千代ちゃんと逢う約束がして有ります。軍隊生活中、励まし、喜ばせてくれたのは、千代ちゃんでした。善次は心から御礼を言って居ります。白木の箱と千代ちゃんを是非逢わせて下さい。/尚、靖国の社へは御両親と千代ちゃんで一緒に来て下さい。では靖国での面会を待ちます。(横山孝一『八月十三日の神鷲』) と書いた。「千代ちゃん」は父の親友の娘で4つ年上、横山の弟の回想によれば「恋人というより姉がわり」だったという。彼は好きな女性と靖国神社で再会できると信じて死んだのである。 一方、後に残る女性たちは何を考えていたのか。少女たちだと「特攻隊の後を追って死ぬ」という考え方になる。知覧高等女学校3年、15歳の前田笙子の45年4月2日の日記には、「敵が上陸したらどうするかという話を承うけたまわ」り「私達も立派にお兄様方の後につづき日本の女性ということを忘れず一人でも殺して死ぬつもりです」と答えたとある(知覧高女なでしこ会『知覧特攻基地』)。 当時の日本では「一億総特攻」のかけ声のもと、一般国民も特攻隊員にならい、勝つまで徹底抗戦することになっていた。知覧は本土決戦で敵の上陸が予想されていた南九州であるから、ひときわ切迫感があったろう。前田は本気で特攻隊員と同じように、米兵を一人でも殺して死ぬと考え、かえって特攻隊員たちに「いたずらに死んではいけない」と諭されている。 女学生たちのみた特攻隊員たちは、友と一緒に死ぬことに喜びを見いだしていた。知覧高等女学校3年の鳥浜礼子は日記に、「真太治さんは、中島さんと仲の良い同期生。松本さんが攻撃に行くといったので、中島さんは、手が痛いのに一しょに行きたいと云って一しょに行かれた」と書いている(同。中島は手を怪我していた)。 松本真太治軍曹と中島豊蔵軍曹はともに第四八振武隊員、同じ6月3日に出撃戦死した。彼らは、仲のよい友と運命をともにすることに喜びを見いだしていたのかもしれない。 誰かとともに死ぬことを喜びとしていた若い飛行兵は他にもいる。5月10日に戦死した飛行第一〇三戦隊員・陸軍伍長の稲田光男(18歳)は45年4月のある日、女学生たちへの手紙で「私達も何時迄も知覧に居たいんですが上からの命令で至〔致〕し方ありません。私達の事は死んでも忘れないで居てね。花の都の靖国神社に先へ行って居ります。席も私達の横にちゃんとあいて居りますよ。皆さんも死んだら靖国神社だね。いいなあ」と書いた(同)。 直掩隊の稲田は「敵を徹底的に撃滅する迄は死んでも死ねないからね」とはいうが、全軍特攻ではいずれ必ず死なねばならない。来たるべき本土決戦で女学生たちも必ず死んでまた一緒になってくれる、この確信が死を受け入れさせている。若者たちが出撃していったのは、少女たちの命を護るためというよりは、逃れられない運命のもとでともに死に、再会するためであった。 * さらに【つづき】〈「愚かな指導者たちが生き残るのに、自分は死ぬ」…残される親や女性を思いながらも、諦めを抱いて突入した特攻隊員〉でも、残される親や女性を思いながらも、諦めを抱いて突入していった隊員たちについて、くわしくみていく。