ブリヂストン、月面タイヤへの過酷なる挑戦 - 「空気とゴムに甘えていた」
そのためにも試験を繰り返す必要がある。だが「ルナテラス」に至るまでは試験場を探し苦労の連続だったそう。ブリヂストンがトヨタとともに月面有人与圧ローバーの研究を始めたのは2019年。当初から評価(テスト走行)できる場所が必要だが、なかなか見つからなかった。「地球上で車が走る路面や環境はあらゆる方法でテストコースで再現しているが、砂地を車が走ることは想定されていなかった」と弓井氏は語る。 「モトクロス場の一角を使わせてもらったり、承認をとって海岸でテストしたりしました。モトクロスはバイクで山を乗り越える競技なので砂というよりも土だったし、海岸は貸し切りにできるわけではなく釣りをする方がいたり、前日に雨が降ったりするとゴミが流れついていて掃除から始めないといけない。『ルナテラス』で思いっきり走ることができるのはありがたい」
弓井氏が月面探査車用タイヤの開発に関わったのは約半年前。月面タイヤの開発に関わって、一番面食らったのはなんですか?と聞くと、こんな答えが返ってきた。 「タイヤってゴムに空気を入れた黒い丸い塊と思っているでしょ?(月面用タイヤを)やればやるほど、空気とゴムがものすごく偉大だとわかったんです。空気はいくら入れても重くならない。軽いのに車の荷重を支えられる。でも月面用タイヤは金属の構造で荷重を支えると全部重さに跳ね返ります。そしてゴムは大きく変形させてもなかなか壊れない。僕らはゴムと空気に甘えていたんだなと突き詰められました(笑)」 空気もゴムも月面では使えない難しさがありつつ、月面用タイヤ開発にはフロンティアを切り拓く発見と楽しさがあるという。「我々は宇宙に有人与圧ローバーを世界で初めて飛ばした人たちになります」と弓井さんと太田さんは力強く語ってくださった。かつての大人気CM「どこまでも行こう」の通り、月面をどこまでも駆け抜けてほしい(そしていつか私たちを乗せて欲しい!)
林公代