「若旦那が花魁を思い出してデレデレと」 宮藤官九郎が平成中村座『唐茄子屋』 で苦労した“落語”の演じ方
生の舞台と遜色のない出来栄えのシネマ歌舞伎
――最後になりましたが、“シネマ歌舞伎”というスタイルで歌舞伎を観ることの面白さを宮藤さんから教えていただけますか。 東京の人は「歌舞伎を観たい」と思ったらすぐに観ることができますが、地方の方とか、まだ歌舞伎に触れたことのない方に最初に観ていただくのにはピッタリだと思います。「なんだ、私も歌舞伎をきちんと理解できるじゃん」というふうに思えたら、次は少し難しい演目にチャレンジしてみるのもいいと思います。 映画というスタイル、導入には最適ですよね。しかも、映画の鑑賞料金で観られるわけですから。僕は結構、この“シネマ歌舞伎”というスタイルが好きなんです。 もちろん生の舞台を劇場に観に行くのがベストなんでしょうが、「あ、今シネマ歌舞伎で『野田版 鼠小僧』をやっているんだったら久しぶりに観ようかな」という気軽な感覚で行けるのがいい。しかも、舞台を観ているのと同じ感覚で観られるんですよ。表情もしっかり見えるし。 ――実際の歌舞伎の舞台との差は感じませんか? スタッフさんが、すごく作り慣れていらっしゃるんですよね。ちゃんと話の筋が分かるように、舞台を観たときと変わらないようにと、こだわって作られている。生の歌舞伎を観ようとすると、どうしてもチケット代がかかってしまいますが、シネマ歌舞伎なら同じ料金で9~10本くらいは観られます。そう考えると、結構いいなって思うんです。 ――歌舞伎と同様に、落語も伝統芸能でありながら、なかなか生で触れる機会が少ないと思うのですが。 先ほども少し話に出ましたけど、落語は想像力に頼る芸術であるところが面白いんです。別に難しいことは話していないので、ぜひ構えずに体験してほしいですね。 先日も、新宿の末廣亭で行われた『古今亭志ん生没後50年 追善興行』のトークショーのゲストに呼んでいただいて、楽屋で出番を待つ落語家さんの様子を見ていたんです。彼らはフラッと入ってきて、前の人がやった演目をネタ帳でチェックして、「じゃ、俺はこの噺をやるか」って高座に上がっていく。ネタが被らないようにするためですが、もう本当にサラッと。「どうしてそんなことができるんだろう」って思いますよね。 先ほど話した「歌舞伎俳優が数回の稽古でできちゃう」のがすごいのと同じで、落語家さんは楽屋に入ってから「前の人とネタが被らないように演目をその場で決める」のがすごい。だから昼夜入れ替えのない寄席を、通しで聞いても飽きません。 ――この作品を通して、歌舞伎にも落語にも興味を持つ人が増えるといいですね。 そうですね。落語は出てくる登場人物がダメだったりするところもいい。格調が高いわけじゃないから、これをきっかけに落語にも、歌舞伎にも足を運んでもらえると嬉しいです。 宮藤官九郎(くどう・かんくろう) 1970年7月19日生まれ、宮城県出身。1991年より大人計画に参加。脚本家として、01年に映画『GO』で第25回日本アカデミー賞最優秀脚本賞ほか多数の脚本賞を受賞。以降もテレビドラマ『木更津キャッツアイ』『あまちゃん』『いだてん~東京オリムピック噺~』など話題作の脚本を手掛ける他、監督、俳優としても幅広く活動。脚本を担当するドラマ『不適切にもほどがある! 』が24年1月に放送スタートする。これまでに『大江戸りびんぐでっど』(作・演出/09年歌舞伎座)をはじめ、渋谷・コクーン歌舞伎『天日坊』(脚本/12年、22年)、六本木歌舞伎『地球投五郎宇宙荒事』(脚本/15年)などの歌舞伎作品を手掛けてきた。第4作となる今作で、初めて平成中村座で新作歌舞伎の作・演出に挑戦した。
前田美保