自主製作映画の快進撃 時代劇のユーモアと人情受け継ぐ「侍タイムスリッパー」
TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回は安田淳一監督の映画「侍タイムスリッパー」について。 * * * 自主製作映画、侍(さむ)タイこと「侍タイムスリッパー」の快進撃が続いている。 今年の夏、池袋シネマ・ロサで公開されると、11月半ば時点で上映館数延べ300館以上、興行収入は6.6億円超えと、まさにうなぎ登り。 時は幕末、山口馬木也演じる幕末の会津藩士・高坂新左衛門が、宿敵の長州藩士と京都の寺門前で刀で一戦を交える直前に雷に打たれ、現代にタイムスリップしてしまう。 そこがたまたま時代劇の撮影所だったことから、「斬られ役」の大部屋俳優として第二の人生を過ごしていくというストーリーに惚れこんで、太秦の東映京都撮影所が全面協力を買って出た。 上映館のあちこちで笑いが漏れ、ラストは拍手まで。 気合の入った迫真の殺陣はもちろん、僕が子どもだった頃の時代劇の面白さを堪能した。
安田淳一監督が主人公に投影したのが「5万回斬られた男」と呼ばれ、「ラストサムライ」にも出演した斬られ役のレジェンド、福本清三さん。彼の謙虚さと慎ましさを反映させたというが、昨年公開された阪本順治監督作品「せかいのおきく」と同様、市井に生きる人々が互いに手を取りあう温かさを軸に置くのが時代劇の良さでもあるのだろう。 映画館の暗がりで味わったユーモアと人の情け。年末年始の冬休みは映画好きだった祖母が吉祥寺のムサシノ映画劇場に連れて行ってくれた。 鑑賞後、冬空の井の頭公園で従兄弟たちとチャンバラごっこに興じたものだ。 時代劇全盛時代が昭和の高度成長期だとしたら、侍タイのスマッシュヒットも昭和ブームの一つなのかもしれない。 SNSで言葉が牙を剥き、電子空間で弱い者いじめが横行する世知辛い世の中だが、映画館に足を運び、この作品を見てほっこりするのも悪くない。 (文・延江 浩) ※AERAオンライン限定記事
延江浩