映像化不可能と言われた『渇き。』 中島哲也監督はなぜ映画化したのか
第3回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、ベストセラーとなった深町秋生のデビュー作『果てしなき渇き』の映画化、『渇き。』(6月27日公開)。成績優秀、容姿端麗な美少女、藤島加奈子の失踪をきっかけに、さまざまな事件が明らかにされていくサスペンスだが、その刺激的すぎる原作は映像化不可能とも言われていた。その作品に挑んだのが、これまた映像化不可能と言われた『告白』を見事に表現した中島哲也監督だ。『下妻物語』、『嫌われ松子の一生』などの作品を手がけるなど、実力派として活躍する中島監督に、なぜ『果てしなき渇き』を映画化したのか聞いた。
たまたま書店でこの本を手に取ったという中島監督は、その感想を「悪夢のような小説です」と振り返る。「娘を捜す父親が本当に酷い人間で、長所も、娘への愛情もひとかけらもない。近年の日本映画でこんなに酷い人間はいないんじゃないか。その男がボロボロになりながら、やがて娘への想いを見出していく。その過程にハラハラドキドキした。この男の映画を作りたいなと」と、直感的に映像化を意識したという。 原作は、『現在』と『3年前』という2つの時間軸が存在し、同時進行していく構成となっている。これに中島監督のクリエイティブ魂がかき立てられる。「どんな映画になるか興味が湧いた。今までにない新しい、お客さまに面白く見てもらえる映画になるんじゃないかと」。しかし、複雑な時間軸の表現、さらには容赦ない暴力描写や性描写、脚本を仕上げていく作業は想像以上に困難を伴うものになった。本作の脚本執筆期間は、実に約半年に及んだという。そうして、選ばれたキャストは“ろくでなし”の父親役にベテランの役所広司。天使であり悪魔のような娘・加奈子を新人の小松菜奈。さらに、妻夫木聡、二階堂ふみ、橋本愛、オダギリジョー、中谷美紀という豪華キャストが集結し、それぞれが個性を発揮していく。 目を覆いたくなるような暴力描写は、1つや2つではなく、役所広司のダメ親父ぶり、小松菜奈演じる加奈子の“魔性”ぶりも突き抜けている。過去と現在と巧みに入り組ませ、原作を踏襲しつつも、中島監督ならではポップで斬新な世界観を作り上げている。原作者の深町も作品を観て「原作があれなので鬼畜な話ですが、ユーモアや洒落も満載。白スーツの役所さんがひたすら『クソ!』『死ね!』と連呼する姿はスカーフェイスのようでした」とその出来上がりを絶賛するほど。 『告白』でも見事な表現力を発揮したが、今回、原作自体が異常な世界観を持つ『渇き。』だけに、中島監督の手腕が光っている。