文楽・吉田玉女が春に「玉男」を襲名 ── 2代目としての決意や師匠の思い出
時代物は好きですね。熊谷は好きな役です
──襲名披露のお役は熊谷(「熊谷陣屋」の主役、熊谷直実)ですね。師匠の役でお好きなもの、玉男になられてやりたい役は何でしょう。 時代物は好きですね。熊谷は好きな役です、師匠との思い出もありますし。それから大星由良之助(「仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)」)。2012年に通しで遣わせてもらって、大役ですから大きく遣いましたが、玉男になってからも遣いたい役ですね。一昨年やった「伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)」の(唐木)政右衛門も好き。由良之助は(首は)孔明ですが、でかい時代物の「文七もの」はやっていきたい。「ひらかな盛衰記(せいすいき)」の樋口(船頭松右衛門、実は樋口次郎兼光)や俊寛(「平家女護島(へいけにょごのしま)」)なども好きですし、景清(「嬢景清八嶋日記(むすめかげきよやしまにっき)」)のような侍もやっていきたいです。 近松も。一昨年、「心中天網島(しんじゅうてんのあみじま)」の治兵衛をやらせてもらいました。そういう世話物、上方の和事も経験していきたい。師匠がやっていた悪役なんかもね。言えばきりが無いですね(笑)師匠がやっていない役でも、どんな役にも挑戦したいと思っています。 ──玉男さんのお役では菅丞相、徳兵衛がやはりとても印象に残っています。 菅丞相は昨年4月に通しで遣いました。初めて遣ったのは師匠の一周忌で東京(2007年)。だから2回目。これはもっともっと年いってこないとあかん役ですね。動かない役っていうのは非常に難しい。まだまだ。何回か繰り返しやらないとものにはならないです。天拝山の段は動きがあるのでやりやすいですが、丞相名残の段の丞相は気持ちが肚(はら)にある。手を動かしたりできないので、気持ちで遣う。そういう役はただ遣うだけではなくて、役の性根を考えていかないと。そこはむつかしいですね。ただじっとしているだけやなくて、考えている。歌舞伎役者でもそうですね。じっとしていてもお客さんに心が伝わるように。やりがいがあります。 徳兵衛は師匠が1100回やられた役。手代徳兵衛っていうと玉男師匠と言われるくらい代表的な役です。僕も“徳兵衛役者”になれたらいいと思います。役を理解するために師匠は本当に床本を読み直し読み直ししてどういう人間なのか考えていました。そういう姿は素晴らしかった。そういういい所を思い出して、僕もやって、それを若い子や弟子に真似してもらえたらいいと思っています。師匠のやっていることをよう見なさいと。僕も師匠が舞台に出てたら袖から見ながら、素晴らしいなあ、かっこええなあ、うまいなあと思ったりしていました。弟子はそういうのが、うまい下手がわからなあかんのですよ。芸はそこなんです。あの人ええなあ、あれはちょっとあかんなあとか、違いがわからないと。そうして、ええとこを真似る。若い子にはそうしてもらいたい。師匠を見て僕も勉強になったので、襲名したらもっとええ手本になれるように頑張っていきたいです。