【現役メガバンク幹部が予測】日銀の追加利上げはいつか?変動金利型の住宅ローンへの影響はあるのか?
追加の利上げはあるのか
冷静に考えると17年ぶりの利上げという節目ではあるが、これまで異次元だった状態を普通の状態に戻したということである。金融関係者も「ここまで長くかかるとは思わなかった」と本音をもらす。目下、唯一気がかりなのは、足下で円安が進んでいる外国為替市場の動向だが、これには政府、日銀も敏感に反応しており、「あらゆる手段を排除しない」といった口先介入を続けている。 今後焦点となるのは、日銀の次の利上げのタイミングである。市場関係者の一部には、「年内にも日銀は追加利上げに踏み切るのではないか」という観測があるものの、一方で個人消費の力はまだ弱く、物価上昇に見合う賃金上昇が広がるには時間がかかるとの見方も根強い。 植田和男・日銀総裁自身も「緩和的な金融環境が当面続く」と説明しており、メガバンク幹部は「よほどのことがない限り、追加利上げは少なくとも向こう1年程度はないだろう」と予想する。元日銀審議委員で野村総合研究所エグゼクティブエコノミストの木内登英氏は、3月19日の決定会合当日執筆のレポートで「2025年前半までずれ込むと見ておきたい」と指摘した。その理由として、FRBの利下げ、インフレ率の低下、(米国をはじめとする)内外景気の軟化などが障害になると例示している。
真の正常化には長い道のり
今後の見通しについて、生活実感や経済の正しい現状認識を含めたキーワードは「一般への波及」になるのではないかと筆者は考える。物価上昇に負けない賃上げ効果の実感や、不正確な情報に惑わされない金融リテラシーが着実に広がるかどうかが課題になるだろう。 今回の政策決定は、個人消費がまだ十分な力強さを欠く中での利上げである。日本全体でみれば、一部大企業の従業員は賃上げの恩恵を受けるが、賃金がなかなか上がらない業種や中小企業もまだ多い。 一般の国民が実感するレベルまで景気回復が浸透していない中で、2年前の春から続いている円安に乗じて海外マネーが都心のマンションを高値で購入し、価格が高騰する対照的な動きも見られる。これは、持てる者と持たざる者の格差が大きくなったバブル期の後味の悪いデジャブ(既視感)を想起させる。 それゆえに実質賃金の上昇による暮らし向き好転の実感や、住宅ローン金利を見直す時などに参考になるような情報を一般レベルまで適切に広く波及させてゆくことが重要になる。金融政策の正常化とはこうした部分までを含むものであり、政府・日銀は十分に時間をかけてゆっくりと進める必要があるだろう。マラソンで言えばようやくスタートラインに立ったところであり、まさにこれから真の正常化に向けた長い道のりが始まるのである。
池田 瞬