小学校から過労死防止を学ぶ「ワークルール教育」で過労死は防げるか
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大手広告会社・電通の過労自殺問題がきっかけで、働き方に対する関心が高まる中、「ワークルール教育」に注目が集まっている。超党派の議連が、労働に関する法律知識や労使間トラブルの解決スキルなどを義務教育段階から教えることを国や地方自治体に義務付ける「ワークルール教育推進法案」を、開会中の通常国会に議員立法で提出しようと動いており、違法な働き方に対する知識を子供の頃から身につけることで、長時間労働を良とする日本の慣習全体を変えていく機会になるのではと期待されている。
ワークルールとは一般的には、労働時間を規制する労働基準法や最低賃金法など、働くことに関する法令や社会保障制度、その活用方法などのことを指す。ワークルールについての幅広い教育を「ワークルール教育」と呼んでいる。 昨年10月、千葉県内の私立高校1年生(約500人)に対し、弁護士3人が交代で行った現代社会の授業では、引っ越しのアルバイトを題材に労働契約などについて学ぶワークルール教育の授業が行われた。 「引っ越しのアルバイトをしていたAさんは期末テストの期間は勉強に集中したいと思い、平日は×印をつけてシフト希望を出しました。しかし、渡されたシフト表には平日にもシフトが組まれていました。上司は人手が足りなくなると困るし、テスト期間は会社に関係ないと言っています」。 ワークルール教育の推進に取り組む菅俊治弁護士が生徒たちに語りかけると、グループに分かれた生徒達は口々に意見を出し合った。「労働契約で約束していないことに従う義務はない」と菅弁護士が伝えると、生徒たちは「労働者はきちんと守られる仕組みになっているんだ」とホッとした様子を見せていたという。 菅弁護士は「具体的な事例や相談先を紹介しながら、トラブルを自分で解決できる力をつけることが重要です」と強調する。
超党派の議連でワークルール教育を進める法整備目指す
これまでは労働法制について詳細に学校で学べる機会はほとんどなかった。現行の学習指導要領では中学・高校で、勤労の権利と義務、労働基準法などについて学ぶよう定めているが、理念や歴史・経済などとの関係を学ぶことが多く、実際の労働法制や社会保障制度の使い方に関する授業は少ない。そのため、若者がアルバイトや就職などで実際に働くことになっても、月100時間を超える残業といった職場の法的なトラブルに直面した際に、問題自体を適切に理解できなかったり、対処できなかったりし、ブラックバイト問題やブラック企業問題を生み出すことにつながっていた。 こうした状況を改善するために、超党派の「非正規雇用対策議連」(会長・尾辻秀久元厚生労働相)が2016年1月にワークルール教育推進法案検討チームを結成、法案の取りまとめに向け動いてきた。 議連がまとめた同法案の骨子(素案)では、国と地方自治体が連携してワークルール教育を実施していくよう求め、国には基本計画を策定することを義務付けている。また必要な財政措置を講じるよう求めている。地方自治体に対しては、国に準じて推進計画を定め、所管する小中学校、高校でワークルール教育を実施することや、教職員に対して必要な研修を行うなどの施策を講じるよう求めた。 また、国や自治体は学校だけではなく、大学や企業などの事業者などに対しても必要なワークルール教育を推進することや、そのための教材などを開発していくことも求められる。 議連は今後、各党の意見を集約しながら具体的な条文をつめ、今国会中に法案提出することを目指している。