ヒグマ駆除、警察や自衛隊なぜできない? ハンター高齢化 揺らぐ民間頼み
住宅地に現れたヒグマを警察や自衛隊が駆除できないのか―。北海道内でクマが増え続ける中、駆除を担う民間のハンターが危険にさらされる事例が相次ぎ、公的機関による直接の駆除を求める声が強まっている。北海道警察などは「駆除できる態勢がない」とするが、ハンターは高齢化などで人材不足に陥っており、民間頼みからの脱却が急務となっている。 【動画】<ドキュメントD>「山を知る」島牧でヒグマハンター育成 昨年10月上旬、北海道猟友会千歳支部の坂井憲一支部長(75)は、千歳市の要請を受け、市内の公園に入り込んだクマの対応に当たった。現場は市街地に隣接し、発砲できないエリアだった。 「いつ襲われてもおかしくない状況」だったが、使えない猟銃は持たず、クマ撃退スプレーだけを携帯。仲間の会員や市職員と爆竹の音や大声を上げ、山林に追い払った。 その前年の10月には、さらに切迫した状況に直面していた。市内のゴルフ場にクマが出没し、坂井支部長は猟銃を構え、体長1メートルの雌と対峙(たいじ)した。距離は15メートルしかなかったが、同行の警察官は「発砲できる場所か判断できない」と繰り返し、クマとのにらみ合いは30分近く続いた。 鳥獣保護管理法は、半径200メートルに建物が10軒以上ある市街地での発砲を禁じている。ゴルフ場のケースでは、署員が関係機関と連絡を取り、市街地ではないと確認した後、駆除に至った。 坂井支部長は「ハンターが負うリスクが大きすぎる。警察など公的機関が猟銃駆除できる態勢を整える時期にきている」と訴える。 政府が1月の通常国会で提出する鳥獣保護管理法改正案では、市町村が許可すれば市街地での発砲が可能となる。駆除に伴う建物被害も自治体側が補償する見通しだ。 現状でも市街地での発砲は、警察官が「緊急時」と認めれば許可されるが、千歳市の事例のように即応できていない。 市町村に駆除の知識がある職員はほぼいないため、発砲の判断ができない状況が続出する可能性がある。北海道猟友会の堀江篤会長は「法改正がハンターの安全確保につながれば一歩前進だが、実効性がある運用こそが重要だ」と強調する。 法改正の議論も含め、民間頼みの駆除が前提となるのはなぜなのか。銃器を扱う公的機関のうち、北海道警察は駆除を担うためには、クマの生態に関する知識や、通常の装備にはない猟銃の使用経験が必要とし、「知見のない警察が駆除を行うことは困難」とする。道警は2023年から始めたハンターや市町村との駆除訓練で、連携を強化する方針だ。 拳銃より強力な銃器を扱う自衛隊の対応について、防衛省も「猟銃の訓練や狩猟のノウハウはなく、省内で本格的に議論をする段階ではない」とする。自衛隊法で定められた災害派遣の適用は「駆除に関し、自衛隊が出動しないと人命や財産に重大な支障が出るかどうかを考えると、過去に想定されてこなかった」との見解を示す。