「弾劾可決」でも韓国の危機は終わらない…自分に酔った“酒豪”尹大統領の「大きな代償」
12月14日、「非常戒厳」を宣言した韓国の尹錫悦大統領に対する弾劾訴追案が可決された。民主主義を求める市民の声が政治に反映されたものの、戒厳令が経済や外交、国内情勢に及ぼす影響は甚大だ。今後の韓国の動向を、共同通信社編集委員・論説委員の佐藤大介が解説する。 【画像】「弾劾可決」でも韓国の危機は終わらない…自分に酔った“酒豪”尹大統領の「大きな代償」 米国の第33代大統領を務めたハリー・トルーマンは在任中、自らの執務室に「THE BUCK STOPS HERE(責任は自分が負う)」との言葉を、座右の銘として掲げていた。韓国の尹錫悦大統領も、同じ言葉が書かれたプレートを執務室に置いていたという。 その言葉を、尹はいま、どんな思いで見つめているのだろうか。 12月3日夜に尹が突如として「非常戒厳」を宣言してから、韓国の政治と社会は混迷の度合いを深めている。
エコーチェンバーに陥った大統領
戒厳令は国会での解除要求の決議案が可決されたことで、わずか6時間で解除された。同法令は、三権分立の制限や表現の自由など、民主主義の根幹を制限することを可能とする強権だ。尹は戒厳令宣布の理由について、国会で多数を占めている野党が対決姿勢を強め、国政をまひさせていたためだと説明したが、それに納得する人はほとんどいなかった。 尹は、野党が政府高官の弾劾訴追案を繰り返し提出することなどを「内乱を画策する明らかな反国家行為」と批判し、国会が「犯罪者集団の巣窟になった」として、「自由民主主義体制の転覆を図っている」と決めつけていた。そうした姿を見て、最高権力者としての判断力に問題があると感じた人も少なくない。 与党側が採決をボイコットしたことで一度は廃案となった尹への弾劾訴追案も、14日の再採決で与党議員の一部が賛成に回り、可決された。保守系のYouTubeを熱心に見ていたとされる尹は、同じような主張ばかりしか見聞きしなくなるエコーチェンバーの状態に陥り、最高権力者として許されない悪手を打ったことで、自ら「詰んだ」と言える。 弾劾可決によって尹の大統領の職務は停止され、内乱容疑で検察や警察、高官犯罪捜査庁(高捜庁)が捜査をおこなっている。尹は検察や高捜庁の出頭要請に応じておらず、憲法裁判所での弾劾審判では、戒厳令を出したことの正当性を主張する方針で、対決姿勢を前面に押し出している。 憲法裁は弾劾審判の結論を180日以内に出さなくてはならないが、尹本人が法廷で弁論をおこなうことも予想される。過去2回の大統領への弾劾審判で、大統領自身が法廷に立ったケースはない。尹は検事総長のキャリアを持つ法廷戦術のプロであるだけに、どういった主張を展開するかが注目される。 しかし、こうした尹の頑なな姿勢は、捜査当局によって在任中の大統領が逮捕されるという、これまでに例のない事態を招く可能性がある。大統領には不逮捕特権があるが、内乱罪には提供されない。この原稿を書いている18日時点で、尹への強制捜査の手は伸びていない。しかし、出頭拒否などを続ければ、尹の逮捕は今後充分に想定されるシナリオだ。 尹の周辺では、戒厳令を進言したとされる金龍顕前国防相のほか、警察庁トップや軍幹部が相次いで逮捕されている。捜査の焦点は、尹が戒厳令の実行にどこまで関与し、どういった指示を与えたかだ。