金メダルを獲得した体操日本代表の（左から）橋本大輝、岡慎之助、谷川航、萱和磨、杉野正尭（撮影・中田匡峻）

　「パリ五輪・体操男子団体・決勝」（２９日、ベルシー・アリーナ） 　深夜の日本列島を沸かせた奇跡の大逆転劇。２大会ぶりに金メダルを手にした体操ニッポンの戦士たちを支えた裏には、縁の下で支え続けた人がいる。２００４年アテネ五輪の男子団体総合で逆転金メダルを獲得し、橋本大輝、萱和磨、谷川航を輩出した順大体操競技部の冨田洋之監督（４３）が、熱き男たちの素顔を明かした。 【写真】歓喜爆発！　奇跡のエースがもみくちゃに 　新時代を生きる男たちが、再び“逆転の架け橋”をかけた。橋本、萱、谷川を指導した順大の冨田監督は、団体総合の戦い方を「もう全部ひっくるめて難しい」と表現する。 　自身は２００４年アテネ五輪での劇的な大逆転の立役者だった。最初の床運動で８カ国中７位だったが、最終種目の鉄棒開始時点では首位のルーマニアを追う２位。最後は冨田監督の着地がぴたりと決まって逆転金メダルに輝いた。「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ！！」－。刈屋富士雄アナウンサーの名実況とともに一躍名場面となった。 　あれから２０年。最終演技の鉄棒は「現役生活で一番プレッシャーのかかったところですね」と明かす。「もう本当に最後の最後のメダルがかかる時っていうのは、もう本当に異様な雰囲気になるので、多分僅差になればなるほど、そういう状況になる」。その一番の緊張シーンをパリでは橋本が担った。難度を落としたとは言え、落下厳禁の大一番で演技を通し切った。 　冨田監督は、橋本の長所について「素直だし、人のいいところをすごく見つけて自分に取り込もうとする貪欲さがある」と評価する。五輪の予選で失敗してボロボロになっても、決勝のあん馬で落下しても、萱の鼓舞に素直に答えた。それが、チームを救う要となった。 　「現役選手の中でも群を抜くメンタルを持つ」萱と、２月に右膝を骨折しながらも「気持ちの強さ」で代表入りを果たした谷川も合わさった最強の教え子３人に、勢いのある初代表２人も加わった。冨田監督は「全員がその１日にかけて合わせないとなし得ない。すごく難しさはあるし、達成したときの喜びも個人とは全然比べものにならないぐらいの達成感を得られるのが団体」と、感動はひとしおだと強調する。 　「『栄光への架け橋だ』みたいな形で、一つの名場面が生まれるのも、結局はいろんな状況が絡んでくるので。やってきたことをそのままやり切ってもらうのが、おのずと周りの感動を生むだろうし、そういう純粋さが一つの名場面として出てくると思う。そういう実直にチームみんなで助け合いながらやってほしい」。チームが一つになってつかんだ劇的な逆転劇は、人々の心を打つ、新たな歴史となった。 　◆冨田洋之（とみた・ひろゆき）１９８０年１１月２１日、大阪府出身。洛南高から順天堂大へ進学した。０４年アテネ五輪団体で金メダル、平行棒で銀メダルを獲得。０５年世界選手権では、日本人として３１年ぶりの個人総合金メダルを獲得した。０８年北京五輪は団体銀。同年１２月に引退し、現在は順天堂大大学院でスポーツ健康科学部助教を務める。