「水ダウ」ミステリードッキリへの小説側アンサーはこれだ! テレビ生放送中のスタジオに「死体」が現れる快作(レビュー)
過日、TBSテレビ『水曜日のダウンタウン』で放送された電気イス対決(相手が座る椅子を予想してビリビリを仕掛け合う1対1の心理戦)がやたらに面白かったのだが、たぶんこれは青崎有吾の話題作『地雷グリコ』を読んで(もしくは評判を聞いて)考えたネタだろう。最近の『水ダウ』は、出演者が殺人事件の謎を解かざるを得なくなる“本格ミステリ状況ドッキリ”など、虚実の皮膜を縫うメタ展開を含め、ミステリ寄りのドッキリ企画が多く、バラエティとフィクションの融合を目指している感がある。 その『水ダウ』に対する小説側からの回答(推測)が本書。 物語は、全国地上波28局ネットのゴールデンタイム生放送特番『ゴシップ人狼2024秋』放送開始40分前から始まる。7人の出演者がそれぞれ芸能界のゴシップを披露し、その中に混じる人狼(ウソつき)を当てるという趣向。ところが、本番直前、遅刻していると思われた大物俳優(兼事務所社長)勇崎恭吾が死体で見つかる。犯人(? )からの要求は、用意された新台本をもとに番組を予定通り進めること。カメラを止めるとスタジオの爆弾が起爆する。 この番組に進退がかかるドジで不器用な統括プロデューサー・幸良涙花(35歳)は、有能なAD・次郎丸夕弥(28歳)の協力のもと、死体を隠して番組を続行しようと決意する。 かくしてゴシップ人狼ゲームの生放送がスタート。その最中、勇崎の死体が(死体役で)スタジオに登場。出演者には新たに、勇崎殺しの謎を解く使命が与えられる。どこまでが台本でどこからがリアルなのか? 実在の番組名やタレント名もバンバン登場し、リアル感を盛り上げる。裏の裏をかくドッキリ番組の裏をかいて、小説でどこまでやれるのか? 最後の2章ではどんでん返しと伏線回収が連続し、小説ならではのすばらしく鮮やかな決着がつく。TVバラエティ愛好者必読の快作だ。 [レビュアー]大森望(翻訳家・評論家) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
新潮社