マスキュリニティ(男性性)を研究する学者が米大統領選後に語ったこと 「民主党の致命的な計算ミス」とは?
米国では何世代にもわたって、「若い有権者」は民主党を支える重要な存在だった。 だが「ずっと変わらない」と思われていたその構造が、ついに崩れた。 【画像】トランプは「右傾化しているが、一貫して投票にいかない若い層」からの投票を集めることにも注力していた 今回の大統領選では、若い男性の間で共和党候補のドナルド・トランプ前大統領への支持率が顕著に増加した。 AP通信の出口調査によると、トランプは若い有権者の間で「得票率56%」という高い支持を獲得している。2020年の前回の選挙では、わずか41%だった。 Z世代の男性の右傾化は、選挙以前から報じられていた。 ところが、世論調査では、若い有権者はトランプ(33%)よりも民主党候補のカマラ・ハリス副大統領(53%)を支持していると報告されていた。 そのため、右傾化しているとはいえ、Z世代が共和党のトランプに投票する可能性は充分に予想されていなかったと、米誌「フォーチュン」は指摘している。 そんななかで、トランプ陣営は、右傾化している若い男性からの票獲得を着々と進めていた。 なかでも「右傾化しているが、一貫して投票に行かない若い層」からの支持を集めることに注力していたと、米ニュースサイト「アクシオス」は報じている。
「エンタメ系ポッドキャスト」への積極的な出演
この層からの票を集めるために、トランプや副大統領候補のJ・D・バンス上院議員が取り組んでいたのが、男性リスナーが圧倒的に多い、ユーチューバーやインフルエンサーによるエンターテイメント系のポッドキャストへの出演だった。 番組内でトランプは「自身のイメージを和らげようとしていた」という。 「リスナーはトランプを政界の悪党ではなく、(社会に革命を起こす)アンチヒーローとして捉えていた」と、ハーバード大学ケネディスクール政治研究所の世論調査部長ジョン・デラ・ヴォルペはアクシオスに語っている。 こうした活動が功を奏してか、激戦州では、30歳未満の男性のトランプへの投票が目立った。ペンシルベニア州では、トランプがこの層の得票率で18ポイントもリードし、2020年に民主党のジョー・バイデン大統領が9ポイント差で勝利したのとは対照的だった。 マスキュリニティ(男性性)を研究する米国の学者リチャード・リーブスは、民主党が負けた理由として、英紙「ガーディアン」にこう語っている。 「男性の教育、メンタルヘルス、孤独といった問題にあまり言及しなかったこと、さらに打ち出した政策が女性やマイノリティの権利などに偏ったことで、若い男性有権者と接点を持つ機会を逃してしまった」 一方で、トランプ率いる共和党は「プロ・マスキュリニティ(男性性を支持する)」なメッセージを打ち出していた。 共和党は、いわばゼロサム的なアプローチを用いて、男性の苦境は民主党や女性たちに原因があると示唆し、無視されてきたと感じる若い男性たちの心を掴んだと、リーブスは分析している。 結果的に30歳未満の全体的な民主党支持率の優位性は減少し、2020年のバイデン勝利のときの24ポイント差から、2024年は11ポイント差に縮小した。 このシフト、つまり米国の最年少有権者の右傾化は、今回限りの一時的なものではなく、長期的な傾向になる可能性も示唆されている。 それは同時に、若い有権者からの支持率で民主党の優位性が保たれていた時代の終わりを意味する。 民主党が若い有権者、特に男性の支持を取り戻すためには、これまでのように女性の権利や、大卒者のための学生ローンの免除を強調するだけではなく、高卒の人たちの就職や職業訓練校の学費サポートなどにも焦点を当てるべきだと、リーブスは言う。 また、民主党が負けたのは「候補が女性だったから」と結論づけるべきではないとも述べ、今後必要なのは、男性のなかでも特に経済的、精神的に苦しんでいるのに社会から見捨てられたと感じている人たちのための政策だと強調している。
COURRiER Japon