「日本が政治争点化」無理がある韓国・文在寅大統領の姿勢
いまなお韓国には国際的な同情がある
しかし、国際社会ではそのような理解にはならない危険があります。日本側は韓国側と比べ、逆に4対6くらいで不利にみられる恐れがあります。もちろんどの国も表面的には日本への支持は口にするでしょうが、本心でどのように思うかは別です。そのような気持ちは今後さまざまな機会に、直接の日本批判ではなく形を変えて出てくる事が考えられます。その点では、文大統領の日本政府に謙虚さを求めた発言は国際社会の同情を巧みに狙っている可能性があります。 日本が注意すべきは、日本の植民地支配は70年も前に終了し、1965年に「日韓基本条約」と「請求権協定」で植民地支配や請求権の問題について解決していますが、韓国民の感情にはいまなお国際的な同情がある点です。 その背景にあるのは国際社会の価値観です。韓国では法律はともかく、「正義」を非常に重視する傾向があります。国際社会の価値観はそれと同じではありませんが、日本側がどのように植民地時代のことを考え、また行動するかは国際社会の関心事です。
「首根っこ」を押さえ過ぎるのは得策ではない
では、日本として何を注意すべきでしょうか。 まず「日本は国際法に従っているが、韓国は従っていない」という主張は控えるべきでしょう。一方的に、韓国側が間違っていると決めつけるべきでないということです。私は個人的には、被害者個人の日本企業に対する請求権が消滅していないというのは日本政府の考えと同じであり、大法院の判断は国際法に違反していると単純には言えないと考えています。 文大統領が国際法についてあいまいな態度を取っていることが、問題を悪化させている根本的な原因であることに変わりはありません。1965年に両国間で締結された「基本条約および請求権協定」は順守しなければなりません。それは国際法に照らしても、国際社会の常識からしても当然のことです。これを無視したり、軽視したりすることはできませんが、それを振りかざして韓国側の非を鳴らすべきでない、ということです。 さらに日本側は、韓国の首根っこを押さえるという印象の言動を慎むべきです。先般のレーダー照射事件に関する日本側の対応には、その点で問題があったのではないでしょうか。この件で日本側の主張は正しいものでしたが、このような姿勢が表れていた可能性があります。特に映像の公開です。 日本側が要求している徴用工問題の協議についても、「韓国側が受け入れる」というのはトランプ大統領一流の発言ですが、日韓関係においては害あって一利ないことでしょう。
----------------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹