大泉洋&吉田羊、共演の多い2人だからできた芝居 「戦争について考えるきっかけになれば」
9月21日21時よりテレビ朝日系で放送される『終りに見た街』は、山田太一による原作を宮藤官九郎が脚本化し、大泉洋が主演を務める注目作だ。 【写真】大泉洋&吉田羊 撮り下ろしカット(全4枚) 大泉演じるテレビ脚本家の田宮太一は、ある日突然、妻のひかり(吉田羊)をはじめとする一家もろとも、太平洋戦争まっただ中の昭和19年6月にタイムスリップしてしまう。衝撃の事態に太一たちが慌てふためく頃、同じく過去の世界にいざなわれた小島敏夫(堤真一)の一家が太一たちのもとを訪ねてくる。 突然の出来事に翻弄されながらも、戦禍を生き抜こうとする夫婦を演じた大泉と吉田に、過去の共演で培った信頼関係や、宮藤が原作に加えた脚色について聞いた。(編集部)
戦争を描く過酷な物語を今、映像化する意義
――オファーを受けたときのお気持ちは? 大泉洋(以下、大泉):僕は山田洋次さんの『こんにちは、母さん』で宮藤さんとお仕事をして、そのすぐ後にオファーをいただきまして、純粋に嬉しかったですね。宮藤さんのドラマには初めて参加させてもらいますし、さらには山田太一さん原作ということで、“天才同士のコラボ”のような。戦争という重たいテーマを扱うわけですが、そこを宮藤さんがどう描くのか、とても楽しみでした。 吉田羊(以下、吉田):山田太一さんの原作と今回の台本を読ませていただいたところ、戦争体験者である山田さんが描く“戦争のリアル”に、宮藤さんがお持ちの“ユーモア”と“現代的な新しい感覚”が合わさっていて。何度も映像化されている作品ではあるけれど、やっぱりその都度、その時代が反映される、変化していく作品だなと大変面白く拝読しました。 ――宮藤官九郎さんとは何かお話されましたか? 大泉:いや、特に話してないですね。シャイな方だから、あまり自分が書いた脚本について何か話すことはないのかな、という気がしましたけど……。 吉田:私は別の場所でお会いしたときに、「よろしくお願いします」と一言だけ言われました(笑)。 ――その一言に全てが詰まっている感じがしますね(笑)。戦争を描く過酷な物語を今、映像化することについてどんな思いがありますか? 大泉:最初は昭和57年(1982年)に細川俊幸さんが演じられて、昭和の終わり頃から40年ほど遡って戦時中に行く話でした。その次は平成17年(2005年)、そして今度は令和6年(2024年)の僕たちが戦時下にタイムスリップする。その時代、その時代で戦争に対する思いや考え方の違う人たちが戦時下を経験することになるので、何度でも作っていく意味があるドラマだなと思います。僕ら世代だと、羊ちゃんも堤(真一)さんも戦争の記憶はないわけで、そんな僕らが親として子どもたちとどう接するのか。いつ作っても、その時代の人たちがよりリアルに戦争というものを考えさせられる作品だと思います。 吉田:今まさに世界で戦争が起こっている時代で、だからこそ世代を超えて、みんなが自分事として戦争を捉えられる。やっぱり今こそやる意味がある作品かなと思います。この当時と違って、今はいくらでも検索ができるし、情報を得られる時代ですから、“ドラマを観て何かを考えて、自分で調べて、照らし合わせて、もう一度考える”ということもできると思うので、ぜひご家族でご覧になっていただいて、「これはどう思う?」と戦争について考えるきっかけになればいいなと思います。 ――実際に役を演じられて、どんなことを感じましたか? 大泉:宮藤さんが、とても現代風に「今、2024年の僕らが戦時中に行ったらどうなるのか」を描いているので、いろいろと面白かったですね。たとえば僕と羊ちゃんのシーンでは、妻に頭が上がらない“2024年の夫と妻”が描かれていて、宮藤さんらしいなと(笑)。それから昨日、約20年前に(中井)貴一さんが演じられたドラマを観たんです。「子どもが戦争に感化される」というのがこの作品において一番ゾッとするシーンなんですが、その場面に関しては、僕たちのドラマのほうがより怖く描かれているなと思いました。今の時代、どこか社会に適応できない若者たちにとっては、自分で考えることはせずに人々の流れに沿って「国のために戦うんだ」「悪いやつをやっつけるんだ」という世の中のほうがラクだと思えてしまうのかもしれない。演じながらそこに怖さも感じたし、父親として「それじゃダメだ」とも思ったり……いろいろと考えさせられました。 吉田:実はお仕事で戦前戦中の役を演じた経験はあまり多くないんです。今回、お芝居とはいえ当時の格好をして昭和19年を生きる俳優さんたちと対峙したときに、やっぱり怖かったんですよね。なので、これがリアルで起こっているとしたら「この時代の人たちはどれだけ怖かったんだろう」、そして「どれだけ絶望的な気持ちで日々を生きていたんだろう」と。本当に恐ろしい時代だなとあらためて感じましたし、今、洋さんがおっしゃった“子どもたちが感化されていく様”も見ているだけで辛くて。今回は原作にはないおばあちゃん(清子役・三田佳子)が同居している設定で、家族の中で唯一の戦争体験者なんですね。そんな彼女のあるアイテムによって我々は戦禍をくぐり抜けていくことになるんですが、やっぱり家族の中に体験者が1人いることで、子どもたちがより感化されていくというか、戦争を身近に感じるきっかけにもなっているのかなと思いました。実際に現場でも、三田さんがおっしゃるセリフ一つ一つにすごく説得力がありましたよね? 大泉:(深く頷きながら)うん。 吉田:三田さんの佇まいに、学ぶところが本当にたくさんありました。 大泉:細川さんが演じた40年前は、主人公自身に戦争の記憶がある設定だったけれど、僕らにはないからね。そこで“おばあちゃんを出す”というのが、やっぱり宮藤さんのすごさだなと思います。おばあちゃんに記憶があって、それを頼りにしていくアイデアも素晴らしくて、おばあちゃんにちょっと認知症が始まっていることによる面白さもある。さすがとしか言いようがないですし、三田さんの起用が本当に素晴らしかったです。 吉田:とぼけたお芝居でね、とても素敵でした。 大泉:戦争というものを扱いながらも、やっぱり宮藤さんならではの笑いが散りばめられてるところが見事ですよね。