プライドが高くて厄介…7000人診察して見えた「職場を腐らせる人たち」の困った実態
根性論を押しつける、相手を見下す、責任をなすりつける、足を引っ張る、人によって態度を変える、自己保身しか頭にない……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか。5万部突破ベストセラー『職場を腐らせる人たち』では、これまで7000人以上診察してきた精神科医が豊富な臨床例から明かす。 【写真】知ったら全員驚愕…職場をダメにする人の「ヤバい実態」
見きわめる──自己保身か、悪意か、病気か
職場を腐らせる人の存在に気づいたら、その動機を見きわめなければならない。「なぜ、こんなことを言うのか」「なぜ、そんなことをするのか」と常に問い続けながら、じっくり観察すべきだ。 自己保身、もしくはアリストテレスが定義した悪意がからんでいることが多い。職場を腐らせる言動が自己保身のためであるほうが、損得を考える理性が働いている分、まだましといえる。悪意がからんでいると、ときには「死なばもろとも」の心境になり、たとえ自分が何かを失っても、ターゲットを蹴落として不幸にしたい一心で暴走しかねない。こういう場合は対処が実に難しい。だから、一体どちらなのかを見きわめることが必要になる。 もう一つの可能性として念頭に置いておかなければならないのは、もしかしたら病気かもしれないということだ。第1章事例4で紹介した完璧主義で細かすぎる人の一人には、精神科の教授から強迫性障害という診断が下されている。また、事例1の根性論を持ち込む上司が軽躁状態に陥っている可能性を指摘したが、この状態は双極性障害(躁うつ病)でしばしば出現する。さらに、ストーカー化する人が恋愛妄想を抱いていることもまれではない。 厄介なのは、いずれの場合も病識をなかなか持てないことだ。とくに、強迫性障害の人の病前性格は真面目で几帳面であることが多いが、これは学校でも職場でも高く評価される資質にほかならない。そのため、ある時期までは成功体験を積み重ねてきており、プライドも高いので、自分が病気とは夢にも思わない。 そもそも、自分が心の病気とは誰だって思いたくないだろう。体の病気ならまだしも、心の病気の場合なかなか受け入れられない。その一因として、いまだに心の病気イコール頭がおかしいという偏見が根強く残っていることがあるかもしれない。 このような偏見の強さを痛感するのは、企業で管理職から「あの社員は病気だと思うので、精神科に行ったほうがいいと思うのですが、それを勧めると、パワハラと騒ぎかねないので、先生から受診を勧めてくださいませんか」と頼まれるときだ。こういう社員に限って、面談の際に質問しても自分には何も問題がないかのような答えが返ってくるので、どう切り出せばいいのか思いあぐねる。 あるいは、勤務先の産業医に勧められてしぶしぶ精神科を受診したと思しき患者が診察室で「私はこんなところ(精神科)に来るような人間ではありません」「私は頭がおかしいわけではありません」などと拒否的な態度を示すこともある。こうした態度の背景には、やはり心の病気イコール頭がおかしいという偏見が潜んでおり、自分が抱えている問題から目をそむけているように見える。 しかも、目の前の現実から目をそむける人は、自分に都合のいいように現実を歪曲して解釈することが多いが、この傾向が強いほど、病識を持ちにくい。だから、周囲から病気の可能性を指摘されても、精神科受診を勧められても、頑として首を縦に振らない。必然的に、診察も治療も受けないまま職場を腐らせるふるまいを続けることになる。 もっとも、こちらが口に出して言うのははばかられるにせよ、病気の可能性も視野に入れておくことは、対処法を考えるうえで非常に有益である。 つづく「どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体」では、「最も多い悩みは職場の人間関係に関するもので、だいたい職場を腐らせる人がらみ」「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という著者が問題をシャープに語る。
片田 珠美(精神科医)