73歳のタフネゴシエーターが登場、史上最年少→史上最高齢に交代したフランス首相「想定外」人事の背景
バルニエ氏は就任後のインタビューで「大統領は議長、政府は統治者」と答えた。大統領は政策審議を正常に行えるよう見守る立場であり、議会が最終決定し、政府が国を統治するという意味で、「大統領は外交、首相は内政」という本来の不文律を守り、大統領が内政に口を出さない状況を望んだ。バルニエ氏は過去に何度もマクロン政権の政策に反対したことがあり、マクロン氏のイエスマンにはならない決意がにじみ出ている。 ■ブレグジットで交渉を担ったタフネゴシエーター
前任のアタル氏は史上最年少の34歳で首相となったが、後任となったバルニエ氏は打って変わって史上最高齢の首相だ。 バルニエ氏は1978年、当時史上最年少の27歳で国民議会議員となった。外相、農水相、欧州連合(EU)のブレグジット担当主席交渉官を務め、ブレグジットをめぐるイギリスとの交渉では、ジョンソン元首相を相手にEUを守り、筋を曲げることはなかったタフネゴシエーターとして知られる。 欧州議会議員も務め、欧州委員会委員長選に挑戦したこともあり、「フランス政治を欧州全体に開放する」意欲を見せ、「愛国者とヨーロッパ人」というEU構想のシンクタンクも設立している。
フランス南東部グルノーブルに近い山間部で育ったバルニエ氏は、無口だが、忍耐力が強く、冷静沈着なことで知られる。交渉術に長けていることから、困難が予想される政党間対話にも期待が寄せられている。 バルニエ氏の相手は議会を構成する各政党、各会派となるわけだが、左派も巻き込んだ議論を積極的に行うことを宣言している。マクロン氏にとっては救世主となる可能性もあるが、まったく先は見えていない。 首相の存在は政治的安定に欠かせないが、マクロン氏自身は社会党出身であり、中道左派に近いが、大統領就任以来、首相は右派から選ぶことが多かった。
■フランスで勢力を伸ばす極右勢力を考慮 フランスでは1997年の右派のシラク大統領と左派のジョスパン首相のコアビタシオン(保革共存)時代に治安が近年で最も悪化し、2002年の大統領選で争点化した治安問題で、移民に厳しい極右・国民戦線(現国民連合)のジャン=マリ・ルペン氏が決選投票まで勝ち進んだ過去がある。 その後の大統領選挙のたびに極右勢力が確実に伸長しているのも、移民問題、治安問題で有権者の期待感が高まったからにほかならない。今年7月の下院選で、仮にRN潰しで右派、左派が共闘しなければ、RNは単独過半数の議席を獲得できるあと一歩に迫っていた。社会の秩序崩壊が進み、有権者には不安定化が止まらない実情に対する危機感は強まっている。