亀梨和也「普段からサイコパスめいているのかもしれない(笑)」 役への向き合い方とスペインでのハプニングを語る<怪物の木こり>
亀梨和也が主演を務める12月1日(金)公開の映画「怪物の木こり」は、サイコパスVS連続殺人鬼の行方を描き、鬼才・三池崇史が監督を務める超刺激的サスペンス。絵本「怪物の木こり」の怪物の仮面をかぶり、狂気の斧で脳を奪い去るという連続猟奇殺人事件の次の標的に選ばれたのは、弁護士の二宮彰(亀梨)。 【写真】亀梨和也“二宮”が菜々緒“戸城”に刃物を向け、迫る しかし二宮は、犯人をも凌駕する狂気のサイコパスだった。犯人を追う警察、そして極限状態に陥った二宮の逆襲が描かれ、追う者と追われる者がどんどん入れ替わっていく先読み不可能なストーリーだ。今作でサイコパスを演じた亀梨を三池監督は「いくつもの顔を持つ亀梨さんは、クールで美しくサイコパスにぴったり」と大絶賛。本記事では、血の通わないクレイジーな二宮を魔性の魅力で挑んだ亀梨に、撮影の裏側を直撃インタビューした。 ■普段から「サイコパスめいているのかもしれない(笑)」 ――目的のためなら手段を選ばない冷血非情なサイコパスの二宮彰を演じるにあたって、キャラクター作りで意識された点はありますか。 サイコパスをテーマにした作品は、世に溢れていますよね。だからこそ、今までのサイコパスのキャラクターにはないような新たな表現をしたいと思いました。クランクイン前にまずは三池監督と役の方向性を確認して。過度に強い表現をせず、「引き算のお芝居で行こう」と決めました。サイコパスとしての二宮の行動は、物語の中で派手なアクションがあるので、逆に目の動きや首の動かし方、顔の表情をとにかく繊細に演じるようにしました。物語が展開していくにつれ、最初と最後では二宮の目の動きや首の使い方も変わっていくように意識しています。 ――三池監督からは、「亀梨さん自身の感性が赴くまま、自由に演じてほしい」というオーダーがあったそうですね。 そうですね。表情をどうするかは、僕に任せていただきました。衣装やヘアメイクを決めていく中で、キャラクタースーパーバイザーの方々から「ナルシスト性はしっかり出したい。亀梨くんの感じをフル活用してもらいたい」って言われたんですよ。僕は自分のことを別にナルシストだと思ってなくて。今の“亀梨の感じ”というよりは、若い頃に築き上げてきた雰囲気なんですけど、ナルシズムみたいなものは、意識しました。ちなみにメイキングを観るとカッコつけているわけじゃないのに、「キマってますね!」って言われていたので、出ているはずです(笑)。 ――本作のサイコパス監修を務めた脳科学者の中野信子さん曰く、サイコパスになる人間は、自分をよく見せる術に長けていて、魅力的な人間に魅せる演出力があるそうです。三池監督も亀梨さんのことを「非情にクールで、美しく、普段からサイコパスに見える瞬間がある」とコメントされていましたが、ご自身ではサイコパス要素はあると思いますか? どうでしょう。正直、戦略めいたことを考えたことはないです。「こんな風に思われたい」と考えて動いてはいないんですよね。その瞬間、その瞬間で、どうするのが適しているかを判断して動いているだけ。どれも偽りの自分ではないですし、計算してやっているわけではないです。例えば、朝から映画を撮って、お昼にバラエティ番組の収録をしてからグループのリハーサルに参加して、夜はスポーツ番組に出演する…という1日があったとして、その現場ごとに自然と切り替えできるのは、客観的に見たら、ちょっとサイコパスめいているのかもしれないですけどね(笑)。 ■自分の演じたキャラクターを“現実にいるんじゃないか”と思ってもらえるように ――いくつもの顔を持っていて、いろんな表現ができる亀梨さんの魅力が、今回の役柄にも自然と発揮されていました。2024年で「3年B組金八先生 第5シリーズ」(1999年)で俳優デビューを果たしてから、25年の月日が経ちます。経験を積まれて、演じることの楽しさや難しさをどんなところで感じていますか。 若い頃は、台本をいただいて台詞が1行でも多いとすごくうれしかったんです。最近は、台詞が多ければ多いほど覚えるのが大変だなと思いつつ(笑)。作品の中心となる、台詞が多い役をいただけることのやりがいを感じています。そして、やればやるほど、自分の癖が分かってきますし、演じられる役の幅も広がってきましたね。 初期は「ごくせん 第2シリーズ」(2005年)のように自分の特徴を上手く活用できる役が多かったのですが、この10年くらいは亀梨っぽくない役を演じることが多くて。「事故物件 恐い間取り」も「連続ドラマW正体」しかり。皆さんが抱いてくれる僕のイメージをどう崩すかということに挑んできました。自分にない要素の役を演じるのも面白いですが、今はまた初期に近いオファーが増えてきていて、久しぶりに僕という人間から溢れ出るものを使える心地良さを感じています。 ――今作も楽しんで演じているのが伝わってきました。 僕にとっては、「亀梨くん全開だったね」も「亀梨くんっぽくなかった」も誉め言葉じゃないんです。僕がお芝居をする中で大切にしているのは、「本当にこの人が現実にいるんじゃないか」って思ってもらえるように演じること。 作品を観終わった後も、自分が演じたキャラクターがひょっとしたら、街を歩いているんじゃないかって思ってもらえたらいいな、と。妖怪やサイコパスみたいないそうにないものもね、もしかしたら本当にいるかもしれない、どこかに生きているのかもしれないと思ってもらえたらうれしいです。 ■スペインの思い出は“スーツケースのロストバゲージ” ――今作で、スペインで開催されたシッチェス・カタロニア国際映画祭でレッドカーペットを歩かれました。ワールドプレミアでご自身の主演作に海外で触れる機会を経験していかがでしたか。 これまでの僕はつながりや巡り合わせに身を委ねて、自分自身でプランをあまり立ててこない人間だったんです。今は40歳を手前にして、何を手放し、何を蓄えて新しい何かを手に入れるのか、自分の指針となるものを考えて進んでいく時期に来ているんですよね。 そう感じている中で、海外の映画祭に行かせてもらって、まだまだやっていないことや辿り着きたかった場所を視野に入れながら歩みを進んでいきたいと思いました。久しぶりに自分の中から何か湧き出て来るような感覚があることに喜びを感じられています。 ――ちなみにスペインでの思い出は? スペインに到着して、衣装を詰め込んだスタイリストさんのスーツケースがロストバゲージしてしまって。すぐにバルセロナに移動して、ショップ巡りをして買い物したんです。なかなかジャストサイスがなくて、大変でした(笑)。 ■ヒューマンドラマのように温かみも感じられる作品 ――ハプニングもあったんですね。でも、映画祭で刺激を受けたスペインで、自分自身を見つめ直す機会に繋がったことは、良かったですね。 自分の感覚を刺激してくれる作品と出会えて、本当に感謝です。三池監督の作品は、「クローズ」や「悪の教典」「風に立つライオン」などたくさん触れてきたので、この作品のオファーが来たときは、監督のフィーリングを楽しみたいと思っていました。自分をどんな風に見せたいとかではなく、この作品では、僕がどんなことを求められているのか、どういう形で存在できるかということに集中できたんじゃないかな。 ――完成した作品をご覧になって、ご自身ではどんな感想を持ちましたか。 サイコパスとか、連続殺人鬼っていうインパクトのあるサスペンスですけど、最終的にはヒューマンドラマのように温かみも感じられる作品になったと思っています。サイコパスっていうと特殊な人間のように感じるけど、人間って誰しも多面体ですよね。 僕らが普段、生活している中でも、家庭での自分と、仕事場での自分、環境やシチュエーションごとに、いろいろな自分がいるわけで。はたして本当の自分って何なんだろう…と(笑)。もちろん、ひっくるめて、全部“私”ではあるんだけど、面白いよね。そんないろんなことを考えさせられるすてきな映画になっているんじゃないかなと思います。 ◆取材・文/福田恵子