目が見えなくても車椅子でも「メイクのわくわく感」は平等に。化粧品メーカーが気づいたコスメカウンターのバリア
晴眼者という視点を変えて、目を凝らす
――OSAJIではさまざまな障がいを持った方が来店されることが多いそうですが、お店の作りとしてバリアフリーを意識したりしていますか。 後藤:完全バリアフリーのような設備が整っているわけではありません。ただ、視覚障がいのお客様にブランドメイクをする際には、椅子に「背もたれ」がある方が安心していただけるので、背もたれのある椅子の導入を検討して動いています。 ――言われてみれば、化粧品売り場のカウンターの椅子って背もたれがないですよね。椅子の背丈も高かったりします。足が地面についている感覚がなかったりすると、不安ですよね。 後藤:一般的に化粧品売り場のカウンターで、タッチアップの際に背もたれがある椅子を用意しているところは少ないですよね。それは主に、60センチ以上のハイチェアがメイクしやすいと言われているからです。そう考えてみると、化粧品売り場のカウンターも晴眼者中心に作られている。障がいを持つ方が取りこぼされる仕組みになってしまっているのかもしれません。 車椅子の方が来店してくださることもあるのですが、広く見える百貨店の化粧品売り場も、他のお客様がいらっしゃることで車椅子が難なく通れるとは限らず、よくよく見ると結構狭い作りだなと感じたりします。そうした目線を持つことで、改善すべきところが見えてくるんじゃないかと思っています。
当事者の方たちが教えてくれること
酒井:私たちも、UBAを導入してブラインドメイクに取り組んではいるものの、目が見えない方の感覚がまだわかっていないところがあります。例えば、屋外にいるときに、「ここで待っていてください」と言われたとします。でも、視覚を通して確認できない状態の場合、近くで車の音が聞こえたら、「ここにいて本当に大丈夫なの?」と不安になりますよね。 もし、店内に椅子がない場合や背もたれがない椅子であっても大丈夫なのですが、必ず手が添えられる場所をお伝えしたり、椅子の正面をしっかり手で伝えたりすることで、当事者の方は安心して店内で過ごしていただけます。 ちなみに、⽇本ケアメイク協会によるブラインドメイクの講習会の際に、質疑応答で真っ先にあがったのが、「街中で困っていそうな方を見かけたとき、なんて声をかけたらいいですか」ということでした。人って本当に困っていても、「大丈夫ですか?」と聞かれると「大丈夫です」と言ってしまうものですよね。それに、街中という環境では、少し近くで声をかけたとしても、「自分が声をかけられているのかどうか」の判別が難しいと思います。ですから、「私が話しかけられている」と認識してもらえるように、例えば、「盲導犬を連れた髪の長い女性の方、何かお困りですか?」というふうに、具体的に尋ねることが大切だそうです。 お釣りをお渡しする際も、まとめて「お釣りです」と渡してもわかりづらいので、まずお札は何枚、硬貨も500円玉1枚……といった感じで、種類ごとにお渡しする方がいい、などを教えていただきました。そうした一つひとつの感覚が、私たちにも学びになりました。