早くも世界的に高評価! ドラマ『SHOGUN 将軍』の日本語へのこだわり
だが、日本語での制作は、簡単なことではなかった。彼らの脚本チームのメンバーは、大半がアジア系アメリカ人の女性たち。日本語のネイティブスピーカーはいない。通常の業務は、英語で行われている。 書き上げた脚本はまず、日本語への翻訳を依頼した。だが、仕上がった日本語訳を確認したプロデューサーで主演の真田、そして宮川は、「話し言葉」ではなく「書き言葉」に翻訳されており、そのまま脚本として使うことはできないと判断。脚本家の森脇京子に、「現代的な雰囲気を感じさせつつも、時代劇らしいセリフ」への書き直しを依頼した。
マークスによると、撮影が開始された後も、真田は現場で俳優たちとともに、より良いセリフにするための調整を続けたという。 ただ、演技には俳優たちのアドリブも入る。コンドウは、それは「英語字幕の作成を難しくした」と話す。「俳優たちが言ったセリフをもう一度英語に訳し、演技とドラマを見る人たちの体験の間にギャップが生じないようにする作業が必要だった」と話している。
外国語の映画の多くにおいて、字幕に書かれているのは、俳優が発している言葉ではなく脚本に書かれた言葉になっている。だが、マークスはそれについて「演技のなかで、言葉は微妙に変化するものです」と指摘するとともに、こう述べている。 「私たちはこの“伝言ゲーム”を、できる限り近い言葉を使って行われるものにしたかったのです」
そのため制作チームは、ポストプロダクションの段階で字幕をチェックし、俳優の表情から見てとれる感情を表す言葉が使用されているかどうか、観客はその言葉で、そのキャラクターに共感することができるかどうか、確認したという。
『SHOGUN 将軍』のセリフがなぜ英語ではいけなかったのか、それは、このドラマを見れば明らかになる。マークスが言うとおり、これは異なる文化がぶつかり合うとき、言葉が翻訳されるなかで「失われるもの」についての物語だからだ。