親族以外への事業承継で、後継者の負担軽減に有効な〈生命保険〉の活用だが…知られざる「落とし穴」に要注意【CFPの助言】
事業承継において、株式会社の場合は、後継者に株式の全部または大部分を引き継がせることになります。後継者が血縁者であっても、従業員等であっても、事業の引継ぎに伴う混乱やダメージを最大限抑え、スムーズに承継できるような対策が必要です。今回は、ファイナンシャルプランナーの中山国秀氏が、スムーズな事業承継のコツについて解説します。 【画像】「30年間、毎月1ドルずつ」積み立て投資をすると…
後継者が「親族以外」の場合に事業承継で起こりうるトラブル
事業承継において、後継者が従業員など法定相続人以外の場合、 ・後継者に株式を買い取ってもらう ・無償で譲渡する という2つの方法があります。この際、起こりうる問題は下記の3点です。 ■無償譲渡の場合 ……後継者が贈与税の納税資金が必要となる ■後継者が法定相続人から「遺留分」を主張される ……賠償義務を負う可能性がある ■後継者の社会的信用がまだない(少ない) ……運転資金を融資してもらうのが難しくなるケースもある 生命保険を活用した事業承継対策は、「逓増定期保険」あるいは「長期平準定期保険」に加入し、自社株の評価額を引き下げるという1点のみとなります。 前提として、後継者が法定相続人ではない場合、個人が生命保険に加入して後継者のために資金を準備することは不可能です。生命保険の保険金の受取人は原則として「2親等内の血族」に限られているためです。 したがって、対策を講じるべきは「株式の価値をできるだけ引き下げること」です。そのためには、会社として「逓増定期保険」か「長期平準定期保険」に加入し、自身の退職金を準備しつつ保険料の一定割合を損金に算入していくことが、もっとも合理的な方法といえます。 また、経営者としては、後継者がいずれまとまったお金が必要になることを見越し、あらかじめ対象者の給与をある程度多めに設定し支給することもひとつの手です。
“生命保険頼み”はキケン…国の制度活用も視野に入れて
ここまで「生命保険は事業承継対策に有効」とお伝えしてきましたが、いくつか注意点も存在します。 1.自社の「将来的なキャッシュフロー」について構想を練る必要がある 生命保険に加入し、保険料を支払うことで、損金算入による節税効果が期待できます。 しかし、過度に保険料が高い場合、会社のキャッシュフローに影響を及ぼします。事業承継対策にばかりに着目し、経営が悪化した結果生命保険を途中で解約……といった事態は避けなければなりません。 事業承継対策と会社のキャッシュフローのバランスを取り、ベストな保険料の商品を選択すべきです。 2.退職金や弔慰金を支払う時期に注意が必要 生命保険の保険金や解約返戻金を、従業員の退職金や弔慰金の支払いに充てるのは効果的ですが、支払う時期によっては予想以上に高い税金がかかることもあります。 生命保険を事業承継対策に活用するためには、解約の時期を熟考する必要があるでしょう。 3.生命保険以外の対策も視野に入れる 税制改正によって、以前に比べると生命保険による節税効果は出にくくなっています。そのため、事業承継対策を考える場合、生命保険以外の選択肢も視野に入れることをおすすめします。 政府も中小企業の事業承継を積極的にサポートしていますので、国の支援制度を活用するのも得策です。 その一例として、「事業承継税制」があります。「事業承継計画」を提出するなどの手間がかかるものの、審査に通った場合“事実上納税なし”で事業承継が可能です。 中山 国秀 生活設計本舗 秀ちゃん ファイナンシャルプランナー
中山 国秀