金正恩氏肖像画が金日成、金正日両氏と並んで掲げられる 偶像化に力を入れ始めた? 澤田克己
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の肖像画が、祖父の金日成(キム・イルソン)、父の金正日(キム・ジョンイル)の肖像画と並んでいる光景が初めて公開された。国営の朝鮮中央通信が5月22日に配信し、党機関紙「労働新聞」にも掲載された。 日本メディアでも、金正恩氏の偶像化を進める作業の一環だろうと伝えられた。ただ金正恩氏は当初、自身の偶像化には慎重な姿勢を見せていた。そうした流れが、どこで変わったのだろうか。今後の動きを見極めるためにも、いったんこれまでの流れを振り返っておきたい。 ■当初は偶像化に慎重だった 金正恩氏は、2011年12月の金正日死去に伴って権力を継承した。後継者として公式な役職に就いてから1年あまりで、年齢的にも20代後半という若さだった。それだけに指導力を疑問視する向きもあったが、後見役と考えられた実力者を次々と排除して独裁体制を固めた。 ただ自身の偶像化には慎重な姿勢を見せていた。国民に奉仕する「親しみやすい指導者」像の演出に努め、「人民大衆第一主義」をスローガンに掲げた。19年には党行事参加者への書簡で「首領の革命活動と風貌を神秘化すれば、真実を覆い隠すことになる」と表明し、個人崇拝とは距離を置く姿勢を見せた。 金日成、金正日と違って自らの誕生日を祝日にすることもない。そもそも生年月日は公表されてもいない。 今年3月に筆者との共著で「最新版 北朝鮮入門」を上梓した慶応大の礒﨑敦仁教授(北朝鮮政治)によると、同じく世襲の権力者だった金正日とはかなり違う。1980年の党大会で後継者として表舞台に登場した金正日の肖像画は、80年代のうちに金日成の肖像画と並べて掲げられるのが当然となった。金正日の誕生日は、金日成が存命だった92年に「民族最大の名節」に指定されて盛大に祝われるようになっていた。 ■ミサイル開発で「国の格」を上げる? 一方で北朝鮮の観点から見ると、金正恩氏は先代がなしえなかった実績を上げてきた。核・ミサイル開発に拍車をかけて核戦力を確立し、超大国・米国の大統領と堂々と渡り合った。対米交渉で大きな成果を生むことをできなかったとはいえ、「国の格」を上げたことになる。