田舎の隠れた魅力を再発掘~水田に浮かぶ人気ホテル
儲かる有機農業に挑戦~求人サイト、教育施設も
SHONAIは観光業にとどまらず、四つの事業を同時展開している。 そのひとつが農業だ。「スイデンテラス」から5分ほどの場所にビニールハウス54棟を建てて、ベビーリーフを栽培している。 「地域の農家が儲かっていない。自分たちでやれることをやろうと考えた時に、農作物の単価が課題だと思う。単価を生産者が優位に決められる市場を分析していくと、有機農業という市場があった」(山中) 目をつけたのは日本の生産者には敬遠されがちな有機農法。安定して生産できれば、単価が高いので勝負できると考えたのだ。 農業部門のグループ会社「ニューグリーン」を作り、そのトップに据えたのが中條大希だ。都内のベンチャーで働いていたがUターン。農業経験ゼロからの挑戦だった。 「みんな素人だったので、ある日はすごく良くできても夏場になると何も生えていない。初期の頃は全然収穫できない時期もありました」(中條) 中條はビニールハウスごとに種を植える深さや与える水の量などを変え、最適な栽培環境を探った。また、全国の農家を回り、現場の知恵や最先端の農業技術を教わり持ち帰った。 こうした努力は実を結び、わずか3年で農業事業は軌道に乗り、収穫も安定。イオンなど全国のスーパーにも卸せるようになり、売り上げ7億円の事業に成長させた。 「僕らが『農業で地方を良くしたい』と思っても、自分たちが農業を全くできていなかったら誰も信用してくれない。成功させないといけないという思いが強かったです」(中條) この成功に地元の若手農家も反応。有機栽培の技術などの勉強会に参加し、全国の農家と情報交換を行っている。 「SHONAIは全国とネットワークがつながっているから、いろいろな成功例や失敗例を早く知ることができて、農業に対する希望が見えた気がします」(米農家・齋藤弘之さん) 「外から来た人だけではダメだし、中にいる人だけでも限界がある。だから、外と中の人がミックスされていくと地方が良くなると思います」(山中) 外部人材を地方に呼び込む人材業も行っている。今春、SHONAIに中途入社した阿部聖人。きっかけは山中が作った「ショウナイズカン」と言う転職サイトだった。「全国の地方都市の課題を本気で解決したいという熱い思いに惹かれて入社しました」と言う。 サイトは庄内地方の求人情報を網羅。単なる求人情報ではなく、職場環境ややりがいなども分かるようになっている。開設から6年で現在112社、1700人が登録している。 夫婦で移住してきた阿部は休日のこの日、車で40分かけて鳥海山の麓へ。お目当ての湧水を汲むと、持ち帰って庄内産の米を炊き上げた。 庄内地方の将来を見据え、子どもたちの教育事業にも進出している。山中が教育事業のために作った施設、キッズドーム「SORAI」では学童保育を行っている。アスレチックやものづくり体験ができる場を提供することで、子どもたちの創造性や個性を育むのが狙いだ。移住してきたSHONAIの社員もこの施設を活用している。 観光・農業・人材・教育を同時に行うスタートアップは地方をどれだけ変えられるのかに注目が集まる。 「私たちは山形・庄内を拠点に深堀りした実績を作り、そこで得た知見やサービスを全国の地方のまちづくりに生かしたいと思っています」(山中)