イスラエルとヒズボラ、停戦合意が発効 「恒久停戦目指す」とバイデン米大統領
フランク・ガードナー安全保障担当編集委員(エルサレム)、フランシス・マオ(BBCニュース、ロンドン) アメリカのジョー・バイデン大統領は26日、イスラエルと、レバノンのイスラム教シーア派ヒズボラとの13カ月にわたる戦闘を終結させる停戦が合意されたと発表した。合意は現地時間27日午前4時(日本時間同午前11時)に発効した。 合意に基づき、イスラエル軍は60日以内にレバノンから撤退する。ヒズボラも同じ期間内にレバノン南部のリタニ川以南から戦闘員や武器を引き揚げ、レバノン国軍が置き換わる。 バイデン大統領は発表で、「恒久的な停戦」を目指していると付け加えた。 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、合意された取り決めをヒズボラが破った場合、イスラエルは攻撃をためらわないと述べた。 ヒズボラからは、コメントは出ていない。 イランが支援する同組織は2023年10月以来、イスラエルと交戦状態にある。今年9月下旬にはイスラエルが砲撃を強化し、限定的な地上侵攻を開始したことで戦闘が激化した。 この紛争は、レバノンにとってここ数十年で最も深刻なもので、現地当局によると3823人以上が死亡している。 合意の履行を監視するアメリカとフランスは共同声明で、「この発表によって恒久的な平穏が回復し、両国の住民が安全に自宅に戻れる条件が整うだろう」と述べた。 国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、イスラエルとレバノン間の停戦合意が「暴力と破壊、苦痛に終止符を打つことができる」と期待を表明した。 ステファン・ドゥジャリク事務総長報道官は、「当事者に対し、この合意の下でなされたすべての約束を完全に尊重し、迅速に実施するよう強く求める」と付け加えた。 レバノン担当特別調整官のジャニン・ヘニス=プラスハート氏もこの合意を歓迎し、「ブルーライン(国連が設定したレバノンとイスラエル、イスラエル占領下のゴラン高原を隔てる非公式な境界線)の両側の民間人が当然享受すべき安全と安心を取り戻すための重要なプロセスの出発点となる」と述べた。 一方で、「前途には多くの課題が待ち受けている」と警告し、「完全かつ揺るぎないコミットメント」が必要だと述べた。 ■イスラエルの有利性高まるか イスラエルは、ヒズボラが停戦合意に違反した場合、軍事行動で対応する権利があると主張している。バイデン大統領もこれに呼応し、イスラエルには「国際法にのっとった自衛の権利がある」と述べた。 ネタニヤフ首相は、「ヒズボラが合意を破り、武装しようとした場合、我々は攻撃する。国境付近でテロインフラを再構築しようとした場合も、我々は攻撃する」と述べた。 また、レバノンでのヒズボラとの戦闘を終結させることで、イスラエル国防軍(IDF)は「イランの脅威」に集中できるとした。 ヒズボラは長い間、イランの第一防衛線と見なされていた。しかし、同組織が保有するミサイル兵器の多くが破壊されたことで、イランとイスラエルの軍事的均衡はイスラエルの有利に傾いたように見える。 ヒズボラは、2023年10月7日にパレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスがイスラエルを攻撃した後、ハマスを支援するとしてイスラエル北部へのロケット攻撃を強化してきた。ハマスの襲撃では1200人が殺害され、251人が人質として連れ去られた。 ネタニヤフ首相は、レバノンでの戦闘を終結することで、ハマスを孤立させ、圧力を強めることにもつながると語った。 「戦争の2日目から、ハマスはヒズボラが自らの側に立って戦ってくれることを期待していた。ヒズボラが戦場から姿を消した今、ハマスは孤立無援の状態だ」 また、ヒズボラとの停戦により、IDFには武器や弾薬、兵士を補給する余裕ができるとした。 イスラエル国内では、同軍は長期にわたって2カ所の戦線で二つの戦争を戦う準備も装備も整っていないとの指摘があった。 イスラエルの主要な支援国であるアメリカは、レバノンでの停戦交渉においてフランスと共同で主導的な役割を果たした。 20世紀に20年以上、レバノンを統治していたフランスもイスラエルの長年の友好国であり、停戦の監視を通じて関与することが期待されている。バイデン大統領はまた、停戦の管理に米軍を派遣しないと認めた。 レバノンでの紛争が終結すれば、ガザ地区での紛争に投入されているイスラエル軍をさらに解放できる可能性もある。ガザ地区での紛争は終結の兆しを見せていない。 バイデン氏は26日の会見で、ガザ地区での停戦について質問された際、アメリカ政府はトルコやエジプト、カタールなどと協力し、「もうひと押し」して合意を達成させようとしていると述べた。 ■ヒズボラの今後は、レバノン国内はどうなる レバノンでは、3823人の死者と1万5859人の負傷者が出たことに加え、ヒズボラの勢力が強い地域で100万人もの住民が避難を余儀なくされるなど、今回の戦争は壊滅的な被害をもたらした。 レバノンのナジブ・ミカティ首相は停戦合意を歓迎。国内の「平穏と安定を取り戻すための根本的な一歩」であり、市民が帰宅できるようになったと述べた。 一方で、イスラエルに対し、停戦合意に「完全に順守」し、現在占領している地域から撤退し、2006年のヒズボラとイスラエルの前回の戦争の終結時に定められた国連決議を尊重するよう要求した。 ヒズボラがイスラエル北部への攻撃を強化して1年後、イスラエルは北部から避難している約6万人を帰還させたいとして、レバノン南部で激しい空爆と地上作戦を実施したほか、首都ベイルートなどへの空爆も行った。 イスラエル当局によると、ヒズボラによるイスラエルおよび占領ゴラン高原への攻撃により、少なくとも75人が死亡し、そのうちの半数以上が民間人だった。また、レバノン南部での戦闘で50人以上の兵士が死亡した。 世界銀行は、レバノンにおける経済損失と被害額を85億ドル(約1兆3000億円)と推定している。復興には時間がかかり、その資金調達方法も不明だ。 ヒズボラもまた壊滅的な打撃を受けた。9月27日にイスラエル軍がベイルートを攻撃した際、長年の指導者ハッサン・ナスララ師を含む多くの幹部が殺害された。その1週間後、イスラエルは別の攻撃で、後継者と目されていたハシェム・サフィエディン師も殺害した。 インフラの多くも損傷したため、ヒズボラが戦後どのような動きを見せるかは依然として不明だ。ヒズボラは深刻な打撃を受けているが、壊滅したわけではない。 イスラエルや多くの西側諸国はヒズボラをテロ組織に認定している。一方レバノンでは、ヒズボラは単なる民兵組織ではなく、議会に代表を送り込む政党であり、シーア派イスラム教徒の間で大きな支持を集める社会組織でもある。 反ヒズボラ派は、これをヒズボラの影響力を制限する好機と捉える可能性がある。紛争前、レバノンではヒズボラはしばしば「国家の中の国家」と表現されていた。そして、多くの人がこれが内戦につながるのではないかと懸念している。 9月に戦闘を激化させて以来、イスラエルはレバノンで毎日数百回の空爆を行い、南部や東部、ベイルートにあるヒズボラの拠点とされる地域を標的にした。 26日、ネタニヤフ首相が閣僚と停戦交渉について話し合っているとの報道が流れる中でも、イスラエル軍は空爆を継続し、少なくとも10人が殺された。 (英語記事 Israel-Hezbollah ceasefire designed to be permanent, says Biden)
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