金ドラ「ライオンの隠れ家」自閉スペクトラムを描いた背景は P語る意図 坂東龍汰の熱演で話題
俳優の柳楽優弥(34)主演のTBS金曜ドラマ「ライオンの隠れ家」(金曜後10・00)が、大きな話題を集めている。特に視聴者を惹きつけているのが、「自閉スペクトラム症(ASD)の青年」という難役に挑戦している坂東龍汰(27)の熱演。同作を手掛ける松本友香プロデューサーに、オファーの意図や物語に込めた思いを聞いた。(中村 綾佳) 【写真あり】虐待シーンも描かれ…その「配慮」と「演出」に称賛の嵐「これは凄く大事」 先の読めないオリジナルストーリーと、豪華キャストの演技が光る同作。真面目で優しい市役所職員・小森洸人(柳楽)と自閉スペクトラム症の弟・美路人(坂東)が、6歳の謎の男の子「ライオン」(佐藤大空)と出会い、ある事件に巻き込まれていくヒューマンサスペンスドラマ。 オリジナル脚本による先の読めない物語や柳楽をはじめとする俳優陣の演技はさることながら、ひときわ注目を集めているのは、坂東の演技。対人コミュニケーションが苦手で物事に強いこだわりがあるなどといった特徴をもつ発達障害の1つである「自閉スペクトラム症」を、丁寧に表現している。 「金曜ドラマをつくりたい」という思いで同局入りした松本プロデューサーは、企画書をつくる段階で「自閉スペクトラム症」を描くことを決めていたという。なぜ物語の主要人物に、この特徴を取り入れようと考えたのか。 「小学生の時に、自閉スペクトラム症を描いた漫画を読みました。当時はこの障がいを取り扱う作品は少なくて、大変興味深く読みました。その後、高校生の時に寮生活をしていたのですが、ルームメイトの妹が自閉スペクトラム症だったんです。毎日一緒に暮らしていたので、その子の話を聞いたり、相談にのったりしていました。それらの体験の中で、この障がいへの理解を深めていったんです」 いざ物語に取り入れようとしたときに、誰に演じてもらうのか…。松本氏は、真っ先に坂東の名が浮かんだという。 「坂東さんが出演されていた映画『閉鎖病棟―それぞれの朝―』での演技が、とても印象に残っていて。この作品で坂東さんは、発達障害によって話すことが不自由な役どころを演じていました。この役作りについて、坂東さんはとても熱心に勉強をされていて…“この役は、坂東さんしかいない”と思いました」 松本氏が坂東とタッグを組むのは、今作で3度目。「坂東さんにこの役をお願いしてからは、役作りの参考になりそうな作品を自ら探してくれて“今、こういう映画を見ています”と連絡をくださったり、とても力を入れてくれていると感じました」と振り返る。 さらに坂東は、前クールの撮影終了後から1カ月間、作品の監修を務める発達障害の子供のための専門塾「さくらんぼ教室」に通い、表現を深めるため生徒たちとコミュニケーションを重ねた。坂東や松本氏だけでなく、ドラマに関わるスタッフ皆がASD研究の第一人者である精神科医・本田秀夫氏の著書を読み、「さくらんぼ教室」に何度も足を運び「自閉スペクトラム症」への理解を深めた。 こうしてつくり上げた作品は、初回から視聴者の心をつかんだ。坂東が細部までこだわり抜いたしぐさや目の動き、その行動は、同じ障がいの子を持つ親からも「自閉スペクトラム症の青年を演じている坂東龍汰さん、すごい。よく観察されて勉強されて理解して役に挑んでるんだなと思う」「みっくんが愛おしい」と大きな反響を呼んでいる。 同作は自閉スペクトラム症のみならず、児童虐待、DVなど、温かいヒューマンストーリーの中に昨今の社会問題が散りばめられている。松本氏は「社会問題にズバリ切り込みたいという意図はない」という一方で「不偏的な物語の中に、現代の社会問題をエンターテイメントにして入れ込み、視聴者のみなさまが知る機会になる…という仕組みはうまく取り入れることができたらいいなと思いました」と思いを語る。 松本氏の思いは、視聴者にも伝わっている。「こんなにあたたかい感想ばかりをいただける事って、あんまりないなと思っています」と反響に驚いた様子で、「後半に向けてサスペンス色が強くなってきて、展開が気になる方が多いと思います。その中で大切にしているのは、洸人・美路人・ライオンの3人のヒューマンな部分。サスペンスの嵐があるからこそ、それぞれの人物がどう成長していくのか…単なるサスペンスドラマではない、金曜ドラマならではのあたたかさに注目していただければうれしいです」と願いを込めた。