火事で閉店するもラーメン作りをやめなかった理由「師匠、地域のラーメン店、常連さんに支えられて」ひたすら帰りを待つ兄の存在
最後の一杯にもらい泣き#3
全国でラーメン店の閉店が相次いでいる。物価高騰に伴う原材料費や水道光熱費の値上げ、人材確保の難しさなどによる経営難が原因とされ、その数は過去最多に上る可能性がある。だが、志半ばでラーメン作りを断念する店が増えるなか、不遇に見舞われながらもラーメン作りをやめない店主もいる。 【画像】子どもの頃に父と兄と食べた思い出のラーメンをベースにした『麺や 独歩』の中華そば
火事による突然の閉店
今年の元日、夜8時頃に事件は起こった。 ラーメンの仕込みが終わって、自宅で親戚の集まりをしていた。店主の井原英樹さんがその後、店に戻ったときに、強烈な異臭を感じたという。慌てて店に入ってみると、大火事が起きていた。 煙が立ち込め、広がった火は一向に消える気配はない。消防車を呼び、必死で消火活動を行う。隣で両親が営んでいる焼肉店にはギリギリ延焼せず、被害は最小限に食い止められた。それでも店はほぼ全焼だった。 「私が鍋に火をかけっぱなしだったのが原因です。それが油に引火して燃え広がってしまったんです。正月早々、突然の出来事に放心状態でした」(店主・井原英樹さん) このお店は東京・昭島にある『麺や 独歩』。JR青梅線・中神駅北口から徒歩4分のところにある人気店。2010年に創業し、2021年にこの場所に移転して営業を続けていた。 元日から消防車が5台も集まり、新年早々、たくさんのやじ馬が店の前に集まった。ちょうど1月から新入社員も入り、これからラーメン職人としての道を歩んでもらおうと思っていた矢先に、火事でお店がなくなるという悲劇。新入社員の最初の仕事が火事の瓦礫の掃除になってしまった。 「お店は続けられませんが、何とか雇用を守ろうとスタッフには掃除をしてもらって給料を払いました。父の経営する焼肉屋の厨房を借りてチャーシュー、ワンタン、味玉のテイクアウトや、チャーシュー弁当の販売をし、なんとか売上を守っていました」(井原さん) 火事で一夜にしてお店がなくなってしまったが、店主・井原さんには「やめる」という選択肢はまったくなかった。復帰に向けてすぐさま動き出し、1月3日から内装業者が作業をスタート。一日でも早く復活オープンができるようにと、できる限り作業を急いでもらった。 火災保険である程度は対応できたものの、支払いはすべて保険が出た後に回してもらい、ギリギリの状態で復帰に向けて動き始めた。 火事で気持ちが切れてしまい、やむなく閉店してしまう店というのは、これまでにもいくつか見てきた。けれど井原さんは違った。井原さんが閉店することを考えなかったことに、大きな理由があったのだ。