手つかずの砂浜が住民のアイデンティティ、巨大津波と対峙せず向き合うと決めた高知県黒潮町のすごい防災対策
■ なぜ住民の意識は2年間で劇的に変わったのか? 松本:最初のうちは行政の取り組みが住民にあまり見えなかったので不安に感じたかもしれませんが、避難道の整備に始まり、戸別津波避難カルテなどを通して防災対策が可視化されたため、自分のこととして捉えてくれる住民が増えたように思います。 よく例に出すのですが、住民の意識の変化を示す例として、ある住民の詠んだ短歌があります。最大津波高34.4mが出た2012年に、その方が詠んだ短歌は以下のような歌でした。 大津波 来たらば共に死んでやる 今日も息(こ)が言う 足萎え吾に 足の悪い母親を連れて避難することをあきらめた息子について詠んだ歌です。ところが、避難訓練などが始まった2014年に同じ人が詠んだ歌はガラッと内容が変わっていました。 この命 落としはせぬと 足萎えの 我は行きたり 避難訓練 足が悪い自分ではあるけれども、生き残るために避難訓練に向かうということを詠んだ歌です。 ──内容がポジティブになっていますね。 松本:職員防災地域担当制や戸別津波避難カルテ、避難所や避難道などが整備されたことで、避難することがリアリティを持って語られるようになったのだと思います。 また、避難するというだけでなく、34.4mを旗印に、新しい産業をおこすことも意識しました。
■ 悪名を奇貨に立ち上げた新産業 松本:好むと好まざるにかかわらず、国内最大の津波が押し寄せる町として黒潮町の名前は知れ渡っていましたから、それを逆手にとって産業を興そうと考えたのです。 ──例えば、どんなことをしたのでしょうか? 松本:一つは、黒潮町缶詰製作所の設立です。 冒頭に申し上げた通り、南海トラフ巨大地震の被害想定を前に、住民は避難をあきらめる避難放棄に陥っていました。その状況を打破するために、防災を軸にしたまちづくりに着手しました。その一つが、防災関連産業として設立した第三セクターの缶詰製造会社です。 現在は防災備蓄品やグルメ缶詰など20種類以上の缶詰を販売しています。東日本大震災の時にアレルギー対応に苦慮したという声を聞いていたので、すべて8大アレルゲン不使用です。 また、直近では「鰹めし」の新商品を作るべく、クラウドファンディングを実施しています。 ──「鰹めし」とは? 松本:黒潮町は鰹の一本釣りで有名です。鰹漁船は1年の大半を海で過ごす過酷な仕事です。そんな漁師が海の上で食べていたのが鰹めしです。私はクラウドファンディングには直接関わっていませんが、県内で水揚げされた鰹を使用し、同じく高知県産の生姜を炊き合わせる形で開発を進めているようです。よろしければ、ご協力をお願いします。 ◎防災コンセプト「にげる」を世界へ! (READYFOR) 缶詰製造の他に取り組んでいるのは、防災ツーリズムです。