加賀まりこ×内田有紀「しがみつく過去はないが80の壁は手怖い。17歳のあなたに〈あ、この子、合うわ〉って思った」
〈発売中の『婦人公論』5月号から記事を先出し!〉 プライベートでの親交も深い加賀まりこさんと内田有紀さん。ともに女優として活躍しながらも、この仕事をやめようと思ったこともあると言います。自分の人生を決めるうえで、ふたりが大切にしていることとは(撮影=浅井佳代子 構成=小西恵美子) 【写真】あでやかな加賀さんの着物姿 * * * * * * * ◆当たり前の日常に感謝して 加賀 この前、目の激痛で飛び起きて、びっくり。朝になったら目覚めるという、当たり前の毎日が続くわけじゃないって、初めて知ったわよ。私、目が潰れたと思った。 内田 80歳まで何もなかったことがすごい。 加賀 知らずに幸せでした。 内田 そんなつらい時に、「昨日は驚かせてごめんなさい。今朝は痛みもなく、目を覚まし、当たり前に感謝しました。メールも打てる。新聞も少し読める。昨日が衝撃的だったから、日常がありがたいです!」とメッセージをくださって。治ってよかったです。 加賀 面白いなと思って。50歳の壁、60歳の壁、70歳の壁はひょいひょい越えてきたけど、80歳の壁は手ごわい。これから腰痛とか、未知との遭遇なんだろうね。まあ、明日のことに興味があるうちは元気よね。88歳まで生きたとして、あと8年。おいしいもの食べたいのが一番。あとはピンピンコロリ。(笑) 内田 死ぬ直前まで元気でいたいですよね。
加賀 それが理想。山本陽子さんは、亡くなる前日に芦田淳さんのブティックにいらしてたって。お洋服買う元気があったのよ。しかも熱海から代官山に。亡くなった日も出かけてて。最高。私にはすがりつく子どもも孫もいないわけだから、人様の手を煩わせず、迷惑かけないで過ごしたい。 内田 まりこさんの名言「1分1秒、過去のこと」。だから、いつも風のように生きている。 加賀 私には、しがみつく過去はない。(笑) 内田 私も、全然ない。(笑) 加賀 作品もそう。人様が褒めてくれても、自分の出た作品は映画館で1回観たらそれっきり。 内田 潔い。(笑) 加賀 媚びない、群れない、含羞を知ってる女たち。(笑) 内田 いいですね。まりこさんは、昨日今日、でき上がったわけではありませんから。 加賀 生まれた時から(笑)。人に頼らない、臆さない。なぜこんなになったかと思って、母に聞いたのね。戦時中だったから、私が生まれてすぐ疎開することになって。母が13歳の姉に、駅で「切符を買うから赤ちゃんと荷物を守ってね」って頼んだの。 姉は本を読むのに夢中で、荷物を丸ごと盗まれた。おむつも入ってたのよ。お陰さまで、私はすごく早くおむつが取れて。その時から自立してた。(笑) 内田 お陰さまですか。さすが。 加賀 ミルクもなくて、お米の研ぎ汁飲んでたんだって。子どもの頃、母も姉も私に興味ないから、かまってもらった記憶がない。いつもひとりで遊んでた。 内田 だからひとりで考えて何でもできちゃうんですね。女優さんがちやほやされて至れり尽くせりだった時代でも、一匹狼のように生きてて。 加賀 可愛げないよね(笑)、ひとりで完結するのも。よくパートナーに言われる。 内田 女の人からすれば憧れです。私はまりこさんが出演した映画『乾いた花』や『月曜日のユカ』などを子どもの頃に観て、かっこいい女優さんだなと思っていました。