河合優実を中心に端役まで出演者全員がベストアクト! すべての家族に響く『かぞかぞ』
ネイティブにしか聞こえない関西弁を使いこなす河合優実の存在感
そんな家族の中心にあって、飄々としながらも家族や困難と向き合っていく七実を演じる河合優実の存在感がエグい。ネイティブにしか聞こえない関西弁(河合は東京出身)を駆使し、ドラマに軽さを与え続けている。しっかり者で愛嬌のある母・ひとみを演じる坂井真紀もベストアクト級。いつも優しい微笑みをたたえて七実と草太をあの世から励まし続ける父を演じた錦戸亮、家族とうまく噛み合わないまま認知症になってしまう祖母を演じた美保純も素晴らしかった。 ダウン症の弟・草太を演じたのは、実際にダウン症でありながらダンスや演技の活動を行っている吉田葵。映画『PERFECT DAYS』にも「でらちゃん」役で出演しているので見覚えのある人も多いだろう。日本の連続ドラマで、障害のある人がメインキャストとして選ばれるのは本作が初めてのことらしい。彼の存在感はドラマの中でとてつもなく大きい。なお、七実を雇う学生起業家・首藤を演じる丸山晴生は、脊椎損傷による車椅子ユーザーである。 家族を取り囲むキャストも多士済済だ。七実の友人で家族がマルチ商法にハマってしまったからあだ名が「マルチ」になってしまった環役の福地桃子、七実が憧れる運送業者・陶山役の奥野瑛太、岸本家を取り上げる番組プロデューサー・二階堂役の古舘寛治、七実を支えるブログ運営会社社長・小野寺役の林遣都、編集者役の山田真歩、祖母の友人役の片桐はいりなど、「この人が出ていたらこのドラマ(映画)は間違いない」というバイプレーヤーが総出演している。 なかでも、七実に大切な教えを与えるバイトリーダー・瀬尾さん役の岡野陽一、七実に英語を教え込む教師・田口役の松田大輔(東京ダイナマイト)がともに異彩を放っている。特に松田は、本作をきっかけに俳優としての出番が爆増してもおかしくないほどの好演だった。 ノンフィクションのエッセイをもとに多角的な掘り下げを行い、映画的な映像やカットバックを駆使しつつ、新しいホームドラマを紡ぎ上げた監督の大九明子(共同脚本も)の手腕に、あらためて唸らされた。河合優実の魅力に引っ張られつつ、いつのまにか岸本家のファミリーストーリーにどっぷり浸かってしまい、見終わった後、自分の家族について考えてしまう。『かぞかぞ』はそんなドラマである。
大山くまお