エマージェンザ世界大会4位、ベストシンガー賞に スネアカバーの戦略とは?
アウェーがホームに変わる
声が一番の武器であるスネアカバー。ドイツでのステージ1曲目に選んだのは、『Sukiyaki Song』として海外でも知られる坂本九の名曲『上を向いて歩こう』だった。アカペラにほんの少しギターを加え、ループステ―ションで音をループさせることでコーラスの効果を演出。美声を最大限に生かした。海外でも音楽好きであれば誰もが知る日本の名曲をあえて選び、親近感を持たせつつ、歌唱力を印象付けた。ただ、その場にいた誰もが「こんな透き通った『上を向いて歩こう』は初めてだ」と感じたのではないだろうか。 奇しくも夜のとばりが落ち始めた空の下、斎藤がこの歌を選んで歌い上げた8月12日は、坂本九の命日でもあった。意識して選んだわけではなかったが、不思議な縁を感じたと斎藤は後に語っている。 続くオリジナルの『朝焼け』『地球』では、聴衆の手拍子を誘い、そのクラップ音もルーパーに取り込んで曲の構成要素にした。聴衆との距離がぐんと縮まり、アウェーであったはずのステージが徐々にホームに変わっていった。『地球』は、これまでのライブとは少しアレンジを変えて挑んだ。ややアップテンポにし、よりリズムを楽しめるアレンジメントだ。 「海外の人の好みに合わせて、リズム重視で演奏してみました」 見渡すと、斎藤の作り上げたリズムに乗って体を心地よさそうに揺らす大勢の聴衆がいた。どのバンドも同じ条件で演奏するが、その場の状況を瞬時に読み取って臨機応変に対処できるアーティストは、実はさほど多くない。斎藤は歌声という武器のみならず、そうした「ライブ力」もずば抜けていた。 最後に演奏した『We』では自らドラムも叩いてループさせ、クライマックスにふさわしい壮大な叙情詩でステージを満たした。聴衆は湧きあがり、指笛と拍手が一斉にその場を包んだ。
ライバルからの大絶賛
バックステージに戻ったスネアカバーを迎えたのは、ともにエマージェンザで戦うほかのバンドの面々だった。 「スネアカバー! 君、すごいね!」 「君こそ日本の音楽の象徴としてふさわしい!自分に誇りを持って欲しい!」 「このままやり続けて欲しい!」 欧米の人は、良いと感じたものへの称賛を惜しまない。実に素直だ。欧米のバンドマンたちが、口々に斎藤の歌声とパフォーマンスを興奮した様子で絶賛。驚いたことに、スネアカバーのステージが始まると、出場したほとんどのバンドマンたちがセカンドステージに集まり、演奏に聴き入っていたのだ。 初となる海外でのステージでスネアカバーが目指したのは、あくまでも日本人アーティストらしいステージだった。斎藤は語る。 「日本の国内戦で戦ってきたほかのバンドの思いやファンの皆さんの思いを背負ってきたつもりです。日本からの参加であることを意識しつつ、挑戦しました。それが他国のバンドマンたちにも認められて、ものすごく自信につながりました」