『二つの季節しかない村』ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督 風景が心情を象徴する【Director’s Interview Vol.443】
観客に挑む、会話のシーン
Q:本作は会話も多いですが、そのセリフの素晴らしさも引き立っています。とくにサメットとヌライが政治的な議論をする夕食のシーンは挑発的とも言えます。 ジェイラン:この映画を作った理由のひとつは、あのシーンにありました。それはアキンの日記にあったもので、とても気に入った部分でした。あのセリフのなかには、個人主義と全体主義という、トルコで典型的な対立的トピックが扱われています。この矛盾のなかで、トルコの人々はつねに苦しんでいる。もしかしたらあのシーンは少し長すぎたかもしれないですが(笑)、とても重要なテーマだと思います。わたし自身は個人主義者で、政治を語ることにはあまり興味がないのですが、映画を作るなら、対極的な物事をそれぞれできるだけ強烈にしなければならない。だからいいことも悪いことも、あらゆる議論をテーブルに差し出したかったのです。 Q:さきほど長さの話が出ましたが、あなたの作品はペースがゆったりとして、会話も多いですが、行間の合間もじっくりと撮っています。映画の尺が長いことは意識されていますか。 ジェイラン:それはわたしにとって問題ではありません。どのみち自分の映画は娯楽作品とは違って、短くしたからといって大勢の人に観てもらえるわけではありませんから(笑)。と同時に、観客を少し挑発したいという気持ちもあります。我々は長い会話のシーンにあまり慣れていないですが、わたしは面白いと思う。『雪の轍』でも20分ぐらいの会話のシーンがありました。毎回このように、ちょっと観客に挑むようなシーンが必要だと思うのです。 Q:サメットと彼が目をかける生徒セヴィムの関係は曖昧で、セヴィムの行動の理由もはっきりとは明かされませんね。 ジェイラン:教師と生徒の関係はデリケートなテーマですが、実際彼は映画のなかで何もしていません。でもここでは事実が問題なのではなく、彼女が不満を言う、そのちょっとしたことがやがてすべての人々に影響を与えていく、そこが肝心なのです。
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