『DAIMA』の前に必見『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』 原点を感じるハチャメチャ感
『ドラゴンボール』シリーズの映画としては最新作となる『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』(2022年)が10月3日にフジテレビ系で地上波初放送。孫悟空とベジータが遠くの星で修行に励んでいた最中に、地球で起こったとてつもない事態に悟飯や娘のパン、ピッコロたちが立ち向かうストーリーが、仲間たちが力を合わせて戦う大切さや、誰かを守って戦うスーパーヒーローのカッコよさを描き出す。キャラクターたちの見せ場でも、声優たちの演技でも楽しみどころにあふれたアニメ映画だ。 【写真】場面カット(複数あり) クリリン参戦! 『ドラゴンボール』のシリーズを楽しんできた人なら、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』で描かれるこのシチュエーションから、どのような内容なのかを判断できるだろう。スーパー過ぎるキャラクターによる星を吹き飛ばすような激しい戦いを見守るタイプの作品ではなく、人間の常識が届く範囲での戦いを楽しむタイプの作品になるだろうということだ。 1作前の映画『ドラゴンボール超 ブロリー』(2018年)は、ブロリーというとてつもなく強いキャラクターに悟空やベジータ、そしてフリーザまでもが苦戦するような激しいバトルが繰り広げられた。そこにはクリリンの居場所はカケラも存在しなかった。 3DCGで作画されながらもセル時代からのアニメの雰囲気を残したキャラクターたちが、3DCGならではの縦横無尽に動かせる技術によって描かれたアクションは、スピーディーでパワフルで、これぞ『ドラゴンボール』といったものだった。評価も高く日本だけで40億円、全世界では1億2200万ドルの興行収入をあげる大ヒット作となった。 この結果を受け、次の映画ではさらなる強敵を設定し、より凄まじいバトルを見せるのだろうといった予想も浮かんだが、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』は反対に悟空やベジータ、ブロリーが離れた地球を舞台に設定。『ドラゴンボール』シリーズの初頭に登場した悪の組織「レッドリボン軍」の残党が、新たな悪巧みを巡らせて人造人間やセルを生み出したドクター・ゲロの孫のドクター・ヘドを味方に引き入れるシーンから物語をスタートさせる。 そして、御飯とビーデルの娘のパンがピッコロに修行をつけてもらっているシーンへと移り、パンを幼稚園に送り出してひとりになったピッコロを、ガンマ2号と名乗る謎のキャラクターが襲撃するシーンへと流して最初のバトルを描く。人間に比べればはるかに強いピッコロをも圧倒するガンマ2号の正体はヘドが作った人造人間。ヘドはレッドリボン軍を率いるマゼンダから、悟飯やブルマは人類の敵だと嘘を教えられ、ガンマ1号も含む2体の人造人間を差し向けたのだった。 ヘドはさらにとてつもない怪物の開発も進めていた。これは自分の手には負えない事態になりそうだと感じたピッコロが、遠い星にいる悟空やベジータを呼び戻そうとするものの、連絡がつかない。やがてガンマ1号、2号とピッコロや悟飯の激突が起こった先で、悟天やトランクス、18号とクリリンも巻き込んだ戦いが始まることになる。 そこに至る展開の中で、悟空とベジータに連絡がついて、一緒にいたブロリーまで地球に帰還していたら、一瞬で片付いた問題だったかもしれない。『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』は3人を展開から遠ざけることで、クリリンが参戦できそうな範囲のバトルに抑え込んだ。これによって大勢による共闘という楽しみが生まれたのだから、なかなか巧い工夫だ。 悟飯ひとりでもワンパンで済んでしまうのでは? そんな意見もありそうだが、これについても研究に打ち込んだせいで戦闘の勘がにぶったことにして、ガンマ1号、2号に及ばないレベルに落としてみせた。そこから悟飯がどのようにして中心人物としての強さであり存在感を取り戻していくかを見守るのが、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』のメインストーリーと言える。 そうした展開を合間で繋いだのが、悟天でありトランクスであり18号でありクリリンだ。特にクリリンは、始めのうちは人間としての限界を意識して戦いから距離を置いていたが、最愛の18号が参戦したからか、いてもたってもいられなくなって戦いに飛び込んでいく。疲れ果ててよろけるクリリンを、18号がそっと支える状況に、2人を推しているファンは喝采を贈りたくなるだろう。 ピッコロにも見せ場があり、悟飯はもちろんその場では最強といった戦いぶりで、『ドラゴンボール』シリーズのファンが期待する激しくて迫力たっぷりのバトルを楽しませてくれる。そこに加わる『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』オリジナルのガンマ1号と2号の戦いぶりが、アメリカンコミックスのヒーローたちのような気高さとスマートさを漂わせる。 レッドリボン軍の誘いに乗ったヘドによってカプセルコーポレーションとその一味は悪だと教えられていた2人だが、そこには悪をなそうといった気持ちは微塵も存在していない。どこまでも正義を貫こうとする人造人間たちを神谷浩史と宮野真守が演じていて、主人公役を多くこなしてきた2人のヒーローぶりをこれでもかと浴びることができる。 レギュラー陣は、『ドラゴンボール』のアニメが始まった頃からのメンバーが引き続き演じているから安心感しかない。悟空だけでなく悟飯と悟天を演じる野沢雅子は強くてひょうきんな悟空と、どこか頼りなさそうな研究者でありながら、パンの危機には全力を開放する悟飯とで、それぞれのキャラクター性をしっかりと感じさせてくれている。ピッコロを演じる古川登志夫も、数々の戦いを経てすっかり落ち着いた良いおじさんといった雰囲気を漂わせている。 クリリンの田中真弓は、『ONE PIECE』のルフィ役が有名になり過ぎてはいても、しっかりとクリリンという強くて優しい人間を聞かせてくれる。ブルマも亡くなった鶴ひろみを引き継いだ久川綾が、テレビシリーズの『ドラゴンボール超』や『ドラゴンボール超 ブロリー』から馴染んできた演技で、ちゃっかりとした女性実業家を感じさせてくれる。まさかドラゴンボールをそんな願いに使っていたとは! 驚き呆れる展開だが、そこも含めてブルマらしさが出ている演技だ。 皆口裕子が演じるパンは、生まれて間もないの『ドラゴンボール超』の頃や、もう少し年齢が上がった『ドラゴンボールGT』の頃とは違った、3歳児ならではのかわいらしさが炸裂していて誰もが保護してあげたいと思うだろう。もっとも、手を出そうとして反撃されたり、逆に懐かれてぶつかってこられたりしたら、普通の人間なら吹き飛ばされるから要注意。そうした変わり目にあるキャラクター性を味わえるという面からも、『スーパーヒーロー』は楽しめる映画だ。 アニメの『ドラゴンボール』シリーズはこの後も続いていて、10月11日からテレビシリーズ最新作となる『ドラゴンボールDAIMA』の放送がスタートする。小さくなった悟空が如意棒を持って大暴れする予告編の映像からは、テレビシリーズの最初期に重なるワクワク感が漂っている。 クリリンやベジータやピッコロといったレギュラー陣は絡んでくるのか。小さくなった界王神や新キャラクターのグロリオ、パンジ、ゴマー、デゲス、ドクター・アリンスの役割は? いろいろと想像が浮かぶが、ひとつ感じられるのは、初期『ドラゴンボール』のわちゃわちゃとした感じが詰まっていそうな点。それは、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』からも感じられたことで、『DAIMA』を前に本作を観て、気持ちを慣らしておく手もありそうだ。
タニグチリウイチ