『侍タイムスリッパー』は人情あふれる快作だ 『カメラを止めるな!』と共通する“やさしさ”
「やさしさ」から一転、物語は現実の「厳しさ」を主人公に突きつける
しかし後半から、「やさしさ」から一転して、物語は現実の「厳しさ」を主人公に突きつける。観客もまた前半のやさしい世界を存分に楽しんでいたからこそ、「なんでそんな厳しいことを突きつけるとですか!?」と思いつつ、しかし実際の歴史がそうであるように、この問題は避けては通れないとも納得するしかない。この転調のタイミングは見事だ。そして物語は、すでに多くの人が指摘しているように、「侍」と「時代劇(と時代劇制作者)」を同じ「滅びゆく者たち」と捉え、その未来と対峙する人間たちのドラマとして結実する。ラスト30分の緊張感はただ事ではない。文字通り現在・過去・未来に向き合うドラマとして、それぞれ異なる立場の人間たちが、どうケジメをつけるのか? その結末は是非とも劇場で目撃してほしい。 ただ一つだけ付け加えるなら、決して悲惨な気持ちで映画館を出ることにはならないだろう。むしろその逆で、「自分も明日から何かやってみるか」と、明るく前向きな気持ちになるはずだ。笑って泣けて、気軽に観れて、しかし根底には深い思慮とテーマ、そして熱いメッセージがある。「日常に疲れている」「自分がやっていることに意味がない気がする」。そんなモヤモヤを軽くしてくれるような、人情あふれる快作だ。
加藤よしき