【食塩水の問題】昭和から平成で中3の正解率が大幅減 数学を「暗記」で誤魔化してはいけない
ズタズタになった状況を痛感したボランティア授業
経済面に目を向けると、1990年頃には、日本のGDP(国内総生産)は2位で、IMD(世界競争力年鑑)では1位であったが、2023年にはそれぞれ4位、35位となった。このような現状を鑑みて、経済産業省は2019年に「数理資本主義の時代~数学パワーが世界を変える」というレポートを発表し、政府の教育未来創造会議は2022年5月に、理系分野を専攻する大学生の割合を2032年ごろまでに現在の35%から50%程度に増やす目標を掲げた。 このような流れになった現在、90年代にあったような算数・数学そしてそれらの教員に対する厳しい風は収まり、フォローの風も吹いている感がある。しかし、ズタズタになった状況は一気に好転するものではない。 とくに、「理解」させることが重要な算数・数学が、安易に「暗記」の教科になってしまっていることが、深刻だと言わざるを得ない。とくに「割合%」の理解が曖昧な若者が多く、この問題の解決が急務だと訴えたい。 筆者は桜美林大学に本務校を移した数年後に、大学の就職委員長を補職としてお引き受けした。当時はまだ大学生の就職状況が悪く、とくに適性検査の非言語分野(算数・数学の基礎的な発想)が弱い状況の改善を試みる必要性を痛感した。そして、後期の毎週木曜日の夜間に「就活の算数」ボランティア授業を行った。そこで見たことで一生忘れられないことは、微分積分の計算は得意であるものの、「割合%」の問題が苦手な学生が多くいることである。
「暗記」で誤魔化す教育に成り下がっていた
原因を徹底的に追求したところ、昔ならば「理解」の教育として扱っていた「割合%」が、単に公式の「暗記」で誤魔化す教育に成り下がっていたのである。同じことが、「速さ」の問題でも見受けられたばかりでなく、図形の教育で大切な「用語の定義」をいい加減にして、面積などの「公式」の暗記だけで済ませていたのである。 そこで筆者は、あるべき理想とする算数教育を想像して、算数の全範囲に渡る指導書をも作る意気込みで、ボランティア授業を続けた。その後、学長先生のアドバイスによって、その授業はリベラルアーツ風にアレンジさせた正規の授業「数の基礎理解」として退職年度まで続けた。本年5月にはそれらの内容をまとめた『昔は解けたのに…大人のための算数力講義』(講談社+α新書)を上梓し、最近、韓国での訳本の出版も決定した。