死者ゼロ、人口ゼロー東日本大震災“奇跡”の過疎地で起きていること
死者ゼロ、人口ゼロの浜から
震災前は26戸があり、漁港や農地もあった大谷川浜。そのすべてが破壊され、居住ができなくなった2011年。震災前と比べれば人口は半減し、高台移転予定の世帯数もわずか9戸(移転前に再建した木村家を含めれば10戸)ではある。しかし、規模を縮小しても、消防団や自治会の機能は継続している。海も農地も、生業の場所でありつづけている。 「(震災直後から)不思議な明るさがあったよね」。木村冨士男さんはそのように震災当時を振り返る。「大谷川は、誰も、ひとりも死ななかったから」。大谷川浜は、全戸が壊滅する被害を出しながら、津波による死者はゼロという歴史をつくった場所でもある。区長や消防団を中心に声をかけあいながら避難し、小学生から90代まで全員が生き残った。 大谷川浜に戻ろう、住み続けようとする理由はそれぞれだ。仕事があるから、生まれ育ったから、復興を見届けたいから…口にする言葉は違えど、住民に共通するのは、この場所で生活するのだ、という迷いのない意思。その意思を共有できる住民がいれば、1000年に一度の大震災でも、集落は続いていく。 奇跡の過疎地の歴史は、次の被災地や全国の過疎地に伝わり、生かされる機会を待っている。 (この記事はジャーナリストキャンプ2016石巻の作品です。執筆:青砥和希)
青砥和希