名物マスター、90歳に 「まだまだ頑張りたい」 ジャズ喫茶「ブルーノート」(青森市)
青森市夜店通りに、現存するジャズ喫茶としては県内最古の店がある。ジャズ界の最高峰レーベル・ブルーノート(BN)の貴重なオリジナル盤を聞かせ、ジャズ専門誌にも取り上げられる「ブルーノート」。1960(昭和35)年の開店で、家業の関係から休業していた時期があるものの、県内のジャズファンで知らない人はいない老舗だ。25日で90歳の卒寿を迎えた名物マスターの岡本和夫さんは妻洋子さん(85)と店を切り盛りする毎日。「体が元気な限り、まだまだ頑張りたい」と張り切っている。 同店は60年7月に市内で2軒目のジャズ喫茶としてオープンした。実家は果物店だったが2階の貸店舗で喫茶店をやらないかと父親から提案された。25歳の時だった。「突然だったが私としては大歓迎。東京の大手果物店で修行していた3年間に集めた50枚のレコードからスタートした」と岡本さん。 開店翌年の61年には、名ドラマーのアート・ブレイキー率いるジャズ・メッセンジャーズが来日。国内に空前のジャズブームが訪れるとともにジャズ喫茶も全盛期を迎える。岡本さんの店も当時珍しいブルーノート(BN)盤を聴かせる本格ジャズの店としてにぎわった。 「BN盤は全て米国から直輸入の時代。月給1万円の時代に1枚3千円もしたし、そもそも手に入れること自体が難しかった。買えるのはせいぜい月に2、3枚。それでも150枚をそろえた。『BN盤をぜひ聴かせてほしい』と県外から訪れる人もいたほど」 ところが店を始めて6年が過ぎた頃、家業の果物店に専念せざるを得なくなり休業を余儀なくされる。「軌道に乗り始めていたから本当にショックだった」と岡本さんは振り返る。 だが、心の中にはいつもジャズ喫茶があった。三十数年間経営した果物店を閉めた後、一念発起し98年にブルーノートを復活させた。「子供も独立したし。本当にうれしかった。やっぱりジャズが好きなんですね」 再開して今年で26年。ジャズなど音楽を取り巻く環境は大きく変化した。レコードのアナログからCD中心のデジタル時代へ。だが、近年は音質にこだわる若者を中心にレコードブームが再燃している。特にジャズにその傾向が強い。 また、コロナ禍以降はインバウンド(訪日客)の増加が目立つが、その波は確実に岡本さんの店にも。韓国やオーストラリアのジャズファンが訪れることが多く、岡本さんは「改めてジャズに関心を持ち、アナログレコードに魅力を感じる人が増えてうれしい」と笑顔を見せる。 そもそも岡本さんがジャズに目覚めたのは青森商業高校時代。クラリネット奏者のベニー・グッドマンに引かれた。ジャズ歴70年を超える岡本さんが、ジャズ喫茶を営む上でモットーとしているのは「わがままを通すこと」だという。 「店にはBN盤を含めて約千枚のレコードがあるが、自分が好きなものばかり。ジャズと聞くと難しい音楽と受け止める人が多いようだが違う。自然と体が動くような、直感で楽しむフィーリングの音楽です。リクエストがあれば喜んでかけますよ。おいでください」