小野寺系の「2024年 年間ベスト映画TOP10」 世界に対する個々の“修正力”が鍵に
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2024年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、映画の場合は、2024年に日本で公開・配信された作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第14回の選者は、映画評論家の小野寺系。(編集部) 【写真】ナチスによるジェノサイドを題材とした『関心領域』 1. 『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』 2. 『憐れみの3章』 3. 『ナミビアの砂漠』 4. 『オッペンハイマー』 5. 『瞳をとじて』 6. 『関心領域』 7. 『落下の解剖学』 8. 『デューン 砂の惑星PART2』 9. 『二つの季節しかない村』 10. 『ゴジラxコング 新たなる帝国』 2024年の終わりを迎えても、パレスチナ・ガザ地区での被害、ロシアによるウクライナ侵攻が続いている。そんな状況下において、世界の映画市場の大きな一角を占めるアメリカが、政治的立場によってイスラエルへの支援をおこなっている事実には、脅威を感じざるを得ない。 娯楽とは生命の安全の上に成り立つものだということを忘れてはならず、作り手の関心の基に創作が成り立つということも確かである。戦争に限らず、この陰惨な時代の姿を映し出すことが、作り手の一つの大きな役割だといえるだろう。 やっかいなのは、さまざまな問題が噴出するなかで、フェイクニュース、陰謀論の蔓延により、“正しさ”や“妥当性”が見失われていることだ。だからこそ、作り手や批評家などは、いまこそ本道に立ち帰りつつ、より強い地盤に立って構築することを目指さなくてはならない。つまり、倒れつつある世界に対する個々の“修正力”が鍵となってくるのである。 『関心領域』のジョナサン・グレイザー監督は、ナチスによるジェノサイドを題材としたが、それを称されたアカデミー賞受賞式で、自身がユダヤ系でありながら、勇敢にもガザ地区への攻撃に異を唱えた。世界に意識や関心を向け、それが自分のコミュニティや仲間であってすらも自制を求める。このような“修正力”こそが、世界を修復するために必要なことだ。 クリント・イーストウッドの監督引退作と呼ばれる『陪審員2番』は、自らが模索し続けたはずの“正義”を揺さぶることで、キャリアの節目に意義深い“逡巡”を残した。このように自身を見つめ直すような、迷いや探究には価値がある。裁判を題材にした映画としては個人的に、より複雑な心理を描いた『落下の解剖学』の方を、ランキングに採りたい。