イタリア人のお酒のシメはパスタ!貧乏メシだが本当においしい「ペペロンチーノ」
『貧乏ピッツァ』(ヤマザキマリ 著、新潮新書)の著者は、イタリアで暮らしていたというだけで「あら、素敵、うらやましい」という反応を示されることが少なくなかったのだそうです。 お金のない学生だった当人にとってのイタリアは、「一生分の貧乏と社会で味わうべき辛酸を体験させられた国」。 ところが日本の裕福な方々の目には、「素敵」で「うらやましい」国だと映っていたということ。そこに大きな齟齬が生じていたわけです。 数あるイタリアンの中でも当時評判だった高級店へ友人に誘われて行った時のことだ。 メニューを開くと、私が貧乏時代に毎日食らっていた、“素うどん”ならぬオリーブオイルにニンニクと鷹の爪と塩コショウだけで味付けした“素パスタ”が、千五百円で振る舞われている。 「ありえない……」と心中の思いを隠すことのできない私は、目の前で美味しそうにスパゲッティを食べている友人に向かって吐露していた。 「これはおそらくイタリアでも最もコストの掛からない一品で、原価はおそらく百円を切っていると思う。」(10~11ページより) そこから話が盛り上がり、日本における表層的なイメージとは異なる“イタリアの貧乏メシ”について語り続けていたところ、隣のテーブルから「どうしてもあなたの声が耳に入ってきてしまうので、すっかり聞いてしまいましたが、その話が本当ならば、ぜひテレビで“簡易ローコストイタリアン”を紹介してもらえないでしょうか」と声をかけられたのだとか。 その人は(当時暮らしていた)札幌のテレビ局のプロデューサーだったため、それがきっかけとなってテレビでイタリア料理コーナーを担当することになったというのです。 なんとも不思議な話ですが、そこで語られたであろうことは、きっと「食」に関する思いを綴った本書の内容にもつながっているはず。
本当においしい「アーリオ・オリオ・エ・ペペロンチーノ」とは?
ところで、いよいよ年末です。コロナが一段落したタイミングでもあり、忘年会も増えつつあるのではないでしょうか? となると、飲んだあとに「シメのラーメン」が食べたくなったりするもの。なかなか危険なトラップですが、それは日本に限った話ではないようです。イタリアでも、似たようなことがあったというのです。 かつて入り浸っていたフィレンツェの芸術家たちのサロンでは、夜な夜なワインやグラッパやウイスキーのグラスを手に、創作で生計を立てている方々が顔を赤くしながら議論を繰り広げられていたそう。そして、そんなときにも、しばしば「シメの一品」が出てきたようで…。 夜半を回ると、誰ともなくサロンの奥にある台所へ姿を消し、十五分後くらいに大きな皿に盛った「アーリオ・オリオ・エ・ペペロンチーノ」を抱えて戻ってくる。 するとその場にいた酔っ払いの芸術家たちは皆歓喜し、小皿にとり分けて、ニンニクとオリーブオイルの香りに包まれたそのシンプルなスパゲッティをしみじみ旨そうにいただくのだが、麺によって失われた糖質を摂取するという意味では、シメのラーメンならぬ「シメのパスタ」とでも言うところか。(176ページより) ちなみに前述の「イタリアンの高級店で出てきた1500円の“素パスタ”こそが、まさに「アーリオ・オリオ・エ・ペペロンチーノ」。 たしかに高級店で上品にいただくよりも、こうして気の合った仲間たちとワイワイ食べるほうがはるかにおいしそうではあります。(176ページより)